少子高齢化による労働人口の減少、働き方改革による働き方の是正、年功序列・終身雇用モデルの崩壊、コロナウイルス完全予防対策によるリモートワークの推進、外国人材の受け入れ、ジョブ型雇用の増加など、現在国内では従来の働き方から大きく変わろうとしています。
そのような中、企業と人の橋渡しとしての役目を担う「人材業界」にも、従来の採用の在り方にも変化が必要であると考えます。
特に、日本の採用市場においては、新卒一括採用が主流となっており、「リクナビ」を展開するリクルートを中心とした人材会社・人材ビジネスは、企業の採用活動において、切っても切れない関係となっているのが実情です。
そして、今も多くのスタートアップ企業が、この人材ビジネスにチャレンジするのはなぜでしょうか? 働き方が見直される中で、従来の「採用」の在り方にも変革が必要ではないでしょうか。
この記事では、人材会社のビジネスモデルの実態や、活用時のメリット・デメリット、今後の展望について紹介をしていきます。
企業の人事ご担当者様や、人材業界への転職に興味がある方は、ぜひご覧ください。
人材ビジネス業界とは
人材業界とは、「人材を採用したい企業」と「就職・転職希望の求職者」をマッチングさせる業界です。
人生の大半を占める仕事選びを支援する業界ということで、「人の役に立ちたい」「人として選ばれる仕事をしたい」と志望するも方も多い、人気の業界です。
具体的な事業内容としては、リクルートが運営する「リクナビ」など人材ナビサイトをイメージされる方も多いのではないでしょうか?人材業界の事業は、リクナビを始めとした求人広告事業以外にも、人材紹介事業や人材派遣事業などがあります。
また、現在はインターネットやスマホアプリの発達に伴い、更に事業内容が細分化され、様々な手法が登場しています。
参考別記事:人材採用手法(15種類)を徹底比較【2020年版】|アフターコロナで考える次世代採用
求職者側にとっては、仕事選びの選択肢が増えたことで、 自分の価値観に合わせて仕事を探すことができます。逆に企業側は、自社に合う人材の採用をするために、複数の手法を併用したり、手法の見極めが重要となっています。
人材ビジネス業界の市場規模
人材業界の市場規模は年々右肩上がりに上昇しており、現在は約9兆円と言われています。
現在は、コロナウイルス感染拡大防止の影響により、経済活動が低下し、全体的にみると有効求人倍率や雇用状況も悪化した状況となっています。しかしながら、IT業界や物流・建設業界などは仕事量の増加に伴い、引き続き採用も強化しているため、人材業界全体としては市場規模は更に成長をしていく見込みです。
売上高ランキング
ここでは、人材業界の売上高ランキングを紹介します。各企業の紹介については、追って詳細を記載します。
1位・・・リクルートホールディングス(売上高:1兆8,399億円)
2位・・・ パーソルホールディングス(売上高:5,919億円)
3位・・・パソナグループ(売上高:2,803億円)
4位・・・アウトソーシング(売上高:2,301億円)
5位・・・ワールドホールディングス(売上高:1,271億円)
コロナ禍の影響は?
コロナウイルスの影響により、国内消費が冷え込み、製造業を中心に非正規雇用者の雇止めや正社員のリストラが起きています。また、飲食店など接客を中心とした店舗事業者に関しても、店舗縮小や廃業に追い込まれ、従業員も解雇となるケースが増えています。
人材業界は、企業と人を繋ぐことで収益を上げるビジネスモデルであることから、多くの企業が雇止めや採用活動の打ち切りを行えば、当然ながら人材業界の売上にも影響してきます。業界最大手のリクルートも、コロナウイルスの影響により、売上収益が前年同月比で21%減少したと発表しています。
リクルート、売上高21%減 4月、米で求人サイト苦戦 「クリック課金」成長期待も
かつて2008年に起きたリーマンショックの際も、多くの人材ビジネス事業者が廃業やリストラの断行をしました。そのため、人材業界は景気に大きく左右される業界ともいえます。
おさえておきたい大手の概要
ここでは、国内の人材ビジネス大手企業を紹介していきます。人材業界に携わっていると必ず耳にする企業ですので、展開しているサービス内容も含めてぜひ押さえておきましょう。
リクルートホールディングス
リクナビを展開するリクルートキャリア、タウンワークなどアルバイト求人メディアを扱うリクルートジョブズを始めとして、人材紹介事業を担うリクルートエージェント、人材派遣事業のリクルートスタッフィング、子会社化したIndeedなど人材関連事業だけでも多岐に渡ります。
その他、じゃらんやホットペッパー、ゼクシィ、SUUMO、カーセンサー、スタディサプリなど、人生のライフイベントには必ずリクルートが関わるといっても過言ではないほど、事業展開の幅は広く、なおかつどの事業も各市場における国内トップシェアを誇ります。
現在は、グローバルNO.1企業を目指し、海外企業の買収にも積極的に行っており、日本を代表する企業の一つと言えます。
パーソルホールディングス
人材業界第2位の売上規模を誇るのは、パーソルホールディングスです。転職サービスのdoda(デューダ)や、人材派遣のテンプスタッフを持つ企業です。
元々は、テンプホールディングス株式会社として設立しましたが、2016年に株式会社インテリジェンスと合併し、2017年にパーソルホールディングス株式会社に商号変更をしました。
国内だけに留まらず、アジア圏を中心に海外でもビジネスを広げるなど、派遣・就業支援など幅広くサービスを扱うグローバル企業です。
現在は、デジタルトランスフォーメーションへの対応を進めていくために、IT企業の買収を強化しており、今後更に進化したサービスの展開がされそうです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは・・・
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること=ITの活用を通じて、ビジネスモデルや組織を変革すること
パソナグループ
人材業界第3位の売上規模を誇るのは、パソナグループです。人材派遣事業を中心に、業務請負や人材紹介事業を行っています。
「社会の問題点を解決する」ことを企業理念に置き、「人を活かすこと」を仕事の役割としており、人を通じた事業開発支援や、個人の自立したキャリア開発に対する取り組みを積極的に行っています。
IT人材など各業界の専門人材派遣、地方創生のための転職支援、働くママのための家事・育児のサポートなど、企業に人手不足解消や、働きたくても働けない環境にある人材の活用に向けた支援を行っています。また、「酪農」と「食育」を学ぶ施設として、本社を構える東京・大手町には、パソナ大手町牧場を開設(2020年10月現在は、コロナウイルス感染症予防のため休止中)をしたりと、ユニークな試みも行っています。
マイナビ
昭和48年に毎日新聞社の関連会社として設立した、株式会社マイナビは、就職・転職・進学情報の提供や、人材派遣・人材紹介などを主業務とする大手人材広告企業です。広告主体という点で、リクルートの競合と位置付けられています。特に、新卒就活サイトのマイナビは、リクルートが運営するリクナビと双璧をなす巨大ナビサイトとして、学生に圧倒的な支持をされています。
その他にも、中途採用のマイナビ転職や、人材紹介サービスのマイナビエージェントなどを中心に、女性・シニア・ミドル・専門職の就労支援サービスを幅広く手掛けています。
歴史ある企業ですが、現在も地方支社の開所を続けており地域に根差したビジネス展開や、「マイナビ農業」など新たなサービスも開始しており、今後更なる成長が見込まれています。
エン・ジャパン
求人情報サイトのエン転職、人材紹介のエンエージェント、人材派遣のエン派遣を中心とした人材広告企業です。
2018年にはLINE株式会社と共同出資会社より「LINEキャリア」のリリースや、2019年には、インドのIT人材派遣会社や、外国人向け求人一括検索サイト運営会社を相次いで買収をするなど、今後の海外展開や国内需要を見据えた、積極的な事業投資を行っています。
また、2020年にはCEO/COOの求人に特化した人材紹介サービス 「エン 社長候補」を開始するなど、業界ではこれまでになかったサービス展開も行っています。
人材ビジネスのタイプ
人材ビジネスと一言でいっても、様々なビジネスモデルがあります。ここでは、基本的な人材ビジネスの種類とその概要について解説をしていきます。
求人広告
求人広告は、人材を採用したい企業が、募集広告を掲載することで、求職者の応募を集める手法です。掲載するメディアは、紙とWEBに分けられます。
紙の場合はフリーペーパーや、新聞折り込み、ポスターなどが挙げられます。具体的なサービスとしては、タウンワークや、ユメックスなどがあります。
WEBの場合は、アルバイト・転職サイト、自社採用ホームページ、検索連動型求人サイトなどが挙げられます。具体的なサービスとしては、リクナビ・マイナビ、Indeed、Googleしごと検索などがあります。
費用の発生は、従来は掲載課金型(掲載するごとに費用が発生)が中心でしたが、現在はWEB媒体が中心になったことから、クリック課金型や、応募課金型、採用課金型など様々な料金形態があります。
メリット
・一度の掲載で広く多くの求職者にアプローチできる
・募集条件によっては採用コストを抑えて採用が出来る
・過去に募集をしたことがある職種であればすぐに求人掲載を開始できる
デメリット
・利用ユーザーが少ないメディアは応募が集まりにくい
・担当営業の力量(ヒアリング力、原稿企画力)によって、掲載効果にばらつきがある
・利用ユーザーが多いメディアはプランによっては掲載順位が埋もれる可能性がある
・応募が来るかどうかは掲載をしてみてからでなければわからない
人材派遣・業務請負(アウトソーシング)
人材派遣とは、人材派遣会社に派遣登録をしているスタッフを、取引先クライアントに派遣を行う業態です。スタッフに対する業務の指揮命令は、派遣先が行います。
業務請負(アウトソーシング)とは、業務請負会社と雇用関係のある従業員に、取引先クライアントから注文を頂いた作業内容を行ってもらう業態です。スタッフに対する業務の指揮命令は、業務請負会社が行います。
上記のように、人材派遣と業務請負は就業場所こそクライアント企業になりますが、違いとしては、業務の指揮命令を誰が行うかが異なります。
業務請負にかかわらず、スタッフをクライアントに派遣し、業務の指揮命令もクライアント側が行っているとなれば、偽装請負という扱いになり、罰則の対象となります。
人材派遣会社・業務請負会社の収益は、登録スタッフ数×稼働単価×稼働時間となります。要は多く人を集めて、たくさんの案件で稼働を増やせば、その分売り上げに繋がる、ビジネスです。
メリット
・直雇用より、時給単価が高い
・大手企業で働ける可能性がある
・就業時間や業務範囲が明確に決まっているので、メリハリをもって働ける
デメリット
・教育を受ける機会が少ないため、中長期で見た場合キャリア成長がしにくい
・景気に左右される。非正規雇用なので、真っ先に雇止めになる
・決まった仕事だけを任されるので、職務の範囲やスキルアップが望みにくい
人材紹介(転職エージェント)
人材紹介は、「採用をしたい企業」と「転職を考えている求職者」の間に入り、転職エージェントが双方のマッチング図る業態です。
人材紹介事業者には、企業側の営業担当と、求職者側のコーディネーターが分業体制になっている場合と、営業とコーディネーター業務を同一エージェントが行う場合と2パターンあります。
リクルートなど大手人材会社は、転職希望登録者も採用希望の企業保有数も多いため、分業制を敷いているところが多いですが、多くの中小企業は両方の業務を同一エージェントが行っています。
求職者に対するキャリア相談・面接指南を行ったり、求職者が企業側に聞きづらい給与交渉なども、代わりに行ってくれるので、求職者側は不安がある程度解消された状態で選考に臨めるようになります。そのため、求人広告に比べてミスマッチが少なく、内定承諾率が高いことが特徴です。
人材紹介事業の収益は、紹介した人材が企業に内定承諾+初出社をすることで斡旋フィーが発生します。相場としては、理論年収の35%です。仮に年収400万円の人材を斡旋した場合は、140万円となります。
メリット
・転職エージェントが橋渡し役となるため、内定承諾率が高い
・求人広告などの非公開求人案件などもあり、キャリアアップも望める
・転職エージェントに希望の職種・業界を相談しながら選考活動に進むことができる
デメリット
・斡旋フィーが高額である。早期退職の場合も1か月以内は、保証がつく企業もあるが、保証内容は企業によって異なる。
・求職者に対しどの案件を紹介するかは転職エージェントのさじ加減による。
(転職エージェントの営業成績に繋がるため、転職エージェントにとって都合の良い案件を優先的に紹介されるケースがある。)
外国人材(技能実習・特定技能・高度人材)
2019年4月1日より「改正出入国管理法」が施行されたことに伴い、在留資格に「特定技能」が新たに創設されました。これにより、これまで外国人が働くことができなかった14の業種で就労が可能となり、今後外国人の受け入れ拡大が見込まれています。
特に国内は少子高齢化による影響で、労働力の減少という問題が起きています。それを食い止め、国力を維持する施策として、外国人の受け入れ拡大に期待がされています。
コロナウイルス感染予防対策により、外国人材の入国は制限されていましたが、2020年10月からは入国制限を徐々に解除していく方向となっており、本格的に外国人材の受け入れが開始される形となります。
メリット
・介護、ビルクリーニング、農業、建設、製造など、国内で人手不足が顕著になっている業種の問題解消に繋がる
・海外進出の足掛かりができる
・新たなアイデアが生まれ、ビジネスチャンスに繋がる
デメリット
・マネジメント、コミュニケーションが求められる
・文化、価値観の違いを理解する必要がある
・就労ビザの取得に時間が掛かる
まとめ
この記事では、人材ビジネスの市場規模、売上ランキング、大手企業概要、人材ビジネスの種類と内容について解説をしてきました。
一昔前は、新卒で入社した会社で定年まで勤めあげることが良しとされていましたが、現在では企業の寿命も短くなっています。そのため、会社に依存した働き方ではなく、働くことを通じて、新しいスキルの開発や多様な考え方を受け入れながら、自己を磨き続けていくことが求められています。
そして、企業が新しいビジネス立ち上げたり、新規事業を行う際には、必ず専門性や意欲を有した人材を配置する必要があります。個人が培った能力を、これからの未来を創る様々な企業に還元していくことが求められています。
その企業と個人の間で、橋渡し役となるのが人材ビジネスです。
人材業界が手掛けるサービスがあるからこそ、いつでも自由に転職ができる仕組みが出来ていますが、ビジネスである以上お金も発生するのも事実です。
人材ビジネス業者に、無駄に費用や労働機会を搾取されることのないよう、企業側も求職者も、正しい知識を身に付け、人材業者有利の条件に飲まれないようにしましょう。