前回までの記事では、人材ビジネスの概要や、業態ごとの特徴を詳しく解説してきました。
シリーズ3回目となる今回は、今大きな注目を集めている、外国人材の受け入れについて解説をしていきます。外国人材の受け入れは、国内の人材不足の解消や、グローバル化に対応した技術発展など様々な効果が期待されています。
しかしながら、外国人材の受け入れには、課題が多いのも事実です。「どのように外国人材を受け入れる準備を進めたら良いかわからない」「既存社員と外国人材間でのコミュニケーションに不安がある」といった声も多く、特に多くの中小企業では受け入れ体制の整備が進んでいない状況でもあります。
それどころか、悪質ブローカーによる不法就労や、ブローカーに多額な支払いをしてまで来日したものの、劣悪な労働環境で勤務を強いられるといった構造的な闇も存在しています。
この記事では、今最も注目される外国人材の受け入れ・活用に関して、制度の概要と、今後の展望について解説をしていきます。どのように受け入れ体制を整えていくべきかを考えるきっかけにして頂けたら幸いです。
外国人採用ビジネスの概要
国内の労働人口が減少する中、人材確保の難易度が高まっています。人手不足倒産も増えている中、今や外国人材の獲得を視野に入れなければ、事業の存続に関わります。
また、新型コロナウイルス感染拡大による経済的打撃のため廃業となる事業所も増えており、ビジネスモデルの抜本的な見直しも迫られており、中でも外国人をターゲットにした商品開発や販売戦略を検討する必要があります。そのため、外国人材の雇用を進め、社内風土も含めてグローバル化に対応していく必要があります。
実際に外国人材がどれ位活躍しているのか、外国人材の就業体系にはどのような種類があるのかを解説していきます。
人材採用手法における外国人採用の立ち位置
現状、外国人採用は、就労ビザの習得の申請や、業種が限定されていることから、誰でも自由に働けるようにはなっていません。
また、雇用者側は外国人材を受け入れるにあたって、様々な手続きを行う必要がありますが、その煩雑さから仲介会社に委託することが基本となっています。そのため、仲介会社に支払う費用も掛かり、それなりの採用コストが発生します。
増え続ける外国人材
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(厚生労働省※令和元年10月末現在)によると、国内の外国人労働者数は約166万人で、外国人労働者を雇用する事業所は約24万ヵ所となっており、いずれも平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新し続けています。
外国人材を国籍別にみると、中国が最も多く約42万人となっており、外国人労働者数全体の25.2%を占めています。次いで、ベトナムが約40万人(24.2%)、フィリピンが約18万人(10.8%)となっています。
外国人労働者が増加した要因としては幾つかあります。
理由1 政府が推進している高度外国人材の受け入れが進んだこと
理由2 雇用情勢の改善が進み「永住者」や「日本の配偶者」等の身分に基づく在留資格の方々の就労が進んでいること
理由3 技能実習制度の活用により技能実習生の受け入れが進んでいること
などが挙げられます。
外国人材の就労先
外国人材の就業先を産業別の割合をみると、製造業が20.4%を占め、次いで卸売り・小売り業(17.4%)と宿泊・飲食サービス(14.2%)となっています。
ただし、近年では製造業の割合は減少傾向にあり、代わりに宿泊・飲食業などのサービス業の割合が増加傾向にあります。さらに2019年からは、サービス業も特定技能業種に認定されたため、今後益々サービス業の就労者は増加していくと想定されます。
外国人採用の種類
外国人の就労者として採用を受け入れるには幾つか種類や条件があります。それぞれの種類によって受け入れることができる業種が定められています。ここでは、それぞれの種類の概要を解説していきます。
技能実習制度
技能実習制度とは、「外国人を母国では習得が困難な技能取得を目的に日本企業が迎え入れることで技能習得を目指し、習得後は母国にて技能を用いて発展に寄与する」ことを目的にした制度です。
つまり、技能を取得するために実習という形で就業できる制度ということです。
受け入れ可能な業種
「外国人技能実習制度」は受け入れることができる業種が定められています。
大きく分けて下記の7つの業種に分かれております。
- 農業:施設園芸、果樹伐採、養豚養鶏など
- 漁業:定置網漁業、イカ釣り漁業など
- 建設:大工工事やとび作業など
- 食品製造:パン製造や惣菜加工など
- 繊維・衣服:染色作業や寝具制作など
- 機械・金属:機械加工など
- その他:ビルクリーニングなど
技能実習制度についてはこちらの記事でも解説をしています。
「技能実習」制度‐今さら聞けない概要を徹底解説!
特定技能制度
特定技能制度は、昨今の労働人口減少による人手不足の解消を目的に、2019年4月に新しく設立された制度です。
「真に受け入れが必要と認められる人材不足の分野」として14種類の業界でのみ就労が可能となる新たな在留資格として設立しました。
受け入れ可能な業種
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 介護
- ビルクリーニング
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気電子情報関連産業
特定技能制度についてはこちらの記事でも解説をしています。
「特定技能」制度‐今さら聞けない概要を徹底解説!
技術・人文知識・国際業務(技人国)
技術・人文知識・国際業務(技人国)ビザとは、事務職やエンジニアなど専門的・技術的な学歴や職歴を持つ外国人が、企業や団体等と契約することで取得できるビザです。いわゆるホワイトカラーの外国人が取得できるビザです。
外国人が日本で働くことができるビザは19種類あり、その中の一つが「技術・人文知識・国際業務ビザ」です。略して「技人国(ぎじんこく)」とも呼ばれています。
該当する職業の具体例
技術
機械工学等の技術者、システムエンジニア等
人文知識
企画、営業、経理などの事務職等
国際業務
英会話学校などの互角教師、通訳・翻訳、デザイナー等
外国人材雇用・活用の今後の展望
外国人採用の今後の展望ですが、パーソル総合研究所の調査結果によると、既に外国人材を雇用している企業では、雇用を拡大していきたい意向は、正社員雇用企業で73.7%、パートアルバイト雇用企業で67.4%、技能実習生雇用企業で71.9%という結果となっています。
また、国内の労働人口減少や、少子高齢化による人材採用難が続く中、人材確保対策の優先順位ランキングにおいて「外国人採用・活用強化」が1位になるなど、各企業で外国人採用に対する積極的な姿勢が伺えます。
また、現時点で外国人材を雇用していない企業においては、外国人材の採用・活用強化は12位となっており、静観の構えが伺えますが、今後外国人材が増えていくことで、あらゆる環境整備が進んでいくと予想されますので、外国人材の新規採用を検討する企業も増えていくでしょう。
参照:パーソル総合研究所 外国人雇用に関する企業の意識・実態調査
あらためて考える外国人採用のメリット
外国人採用を行うことは企業にとってどのようなメリットがあるか解説をしていきます。
人材の確保による、人手不足解消
日本の労働人口は減少し続けています。今後、高齢化がさらに進むと、親の介護による介護離職や、ダブルケア(育児と介護の掛け持ち)の問題を抱え、働きたくても働けない状況に陥る方も増えていくと予想されます。
テレワークの推奨などもありますが、建築現場や介護職、接客・サービス業といった労働集約型の産業は、どうしても時間と場所が限定されるため、構造的に人材不足になりがちです。
特定技能制度の策定により、今後人材不足の解消が期待されています。
海外進出の足掛かりができる
国内の人口が減少している中、日本人だけを相手にしたビジネスは今後大きな成長は見込みにくくなっています。グローバルの視点を持ち、訪日インバウンド需要への対応や、商品・ブランドの積極的な海外への発信を行っていくことが必要です。
ターゲットとする国や地域の人材採用をすることで、現地の詳細なマーケット状況や、文化といった情報を得ることが出来ます。現地に視察に行く際には、翻訳・通訳・ガイドとしての活躍も期待できます。
社内に多様性が生まれ、相乗効果が期待できる
外国人材とコミュニケーションを図ることで、海外と日本の文化・価値観の違いを知ることできます。また、自国を離れて日本で働く外国人材は、仕事に対して意欲的で向上心が高い方も多いです。
そうした外国人材を受け入れることで、社内に価値観の多様性が生まれます。理解が出来るようにわかりやすく説明をしたり、任せる仕事の意味などを教えることで、社内のコミュニケーションが活発になり、組織の活性化が期待できます。
外国人採用が盛んになる業界とは
現時点(2020年10月)では、製造業が3割を占めており、最も外国人採用が多い業界ですが、2021年夏には東京オリンピックの開催を控えており、小売りや、宿泊・飲食サービスといった、接客・サービス業界は今後更に外国人採用が盛んになると予想されます。
また、システムエンジニアを始めとしたIT人材も今後益々増えてく見込みです。プログラミング言語は世界共通であるため、実務の教育に手間がかからないということもメリットです。
特に、日本では多くの産業でIT化が遅れていますが、慢性的なIT人材不足ということもありますので、一定のITスキルを有する外国人材の活用を検討する事業所は、ますます増えていくと考えます。
まとめ
今、日本は衰退の一途を辿っています。日本の経済成長・復活には、企業の発展とグローバル化が強く求められています。「うちはまだ大丈夫」「外国人材を受け入れるのは不安」「グローバル展開のイメージがわかない」といって、静観をしている内にも、状況は刻一刻と変化をしています。
これまで第1章、第2章で解説をしたように、従来の採用手法も通用しなくなってきました。求人広告を掛けても応募が集まらない。採用してもすぐに辞める。採用する度に人材紹介会社に高額な紹介費用を払っている。事業だけでなく、人材採用も日本人だけを対象にしていては、難しい局面に入っています。
しかし、日本で働きたいと願う外国人材が世界には大勢います。今こそ、多様性を受け入れ、視野を広げ、外国人材との共存・共生を考えるべきなのではないでしょうか?
東京オリンピックの開催を控え、今最も世界が注目する国である日本。かつて、戦後の高度経済成長期にジャパン・アズ・ナンバーワンと称された時代のように、国内経済を復活させるためにも、外国人材との真の共存・共生こそが、我々に残された道でもあります。
外国人採用を検討する手がかりとなれば幸いです。
次世代採用ナビではこれまでも外国人材雇用に関する情報を発信してきました。以下も併せてご参照頂ければ幸いです。
・各都道府県、地方自治体の外国人雇用に関する取り組みはこちら 「次世代採用ナビ 自治体」
・外国人雇用に関する基礎知識はこちら 「【2020年版】外国人雇用を取り巻く制度概要」
・日本の人材ビジネスの実態【第1章】【第2章】はこちら
日本の人材ビジネスの実態|2020年知らないと損をする「新採用方式」
日本の人材ビジネスの実態【第2章】|生き残りをかけた人材業界の動向予想