2019年4月に人手不足解消を目的に新設された「特定技能」の就労ビザ(在留資格)ですが、認められている14分野の中には「自動車整備業」があります。運用開始から1年が経過しますが、まだ周知が不十分ともいわれております。そこでこの記事では、特定技能【自動車整備業】の概要をお伝えします。
そもそも特定技能とは?
特定技能とは、人手不足と認められた14分野の単純労働を含む業種で働き日本に滞在することを外国人人材に許可する就労ビザ(在留資格)です。特定技能には1号と2号があり、それぞれ取得要件や滞在期間なども異なります。また特定技能は特定技能1号と特定技能2号の2種類があります。特定技能の就労ビザ(在留資格)の取得要件は、主に下記の2つです。
- 日本語能力試験に合格していること(規定あり)
- 技能評価試験に合格していること(規定あり)
詳しくは以下の記事をご覧ください。
別記事:「今さら聞けない・・・制度の基本と実情「特定技能」制度」
なお、2020年6月現在で特定技能2号が用意されているのは、建設業と造船の2業種のみです。特定技能2号は、在留期限の更新に制限はなく、要件を満たせば永住申請も展望できる在留資格であることが特徴です。
特定技能「自動車整備業」
メカニックとも呼ばれる自動車整備士の業務は、以下の3業務にカテゴリ分けされます。
- 自動車の日常点検整備
- 自動車の定期点検整備
- 自動車の分解整備
なお、自動車整備業の技能実習2号を修了することで、試験を受けることなく特定技能1号へ移行することができます。
「自動車整備業」の現状は?
自動車整備分野が特定技能14業種に指定された背景には、自動車整備士の高齢化に伴う人材不足や、職業選択の多様化・若年層の自動車離れなどによる自動車整備士への志望者数の減少などがあります。
2011年に1倍強だった自動車整備士の有効求人倍率は、2016年には2.90倍をマークし、2019年には3.73倍に達しています。これは、5年後には約1万3000人の人員不足が発生することを意味します。深刻化している自動車整備士不足の打開策として、国土交通省の主導によるPR活動や、働きやすい環境づくり、民間ではシニア人材の積極的な雇用を行ってきました。また、整備士の給与は過去5年間で増加傾向にあります。しかし、それでもなお国内の人材だけでは必要人員数を確保できず、特定技能制度による外国人自動車整備士の受け入れを開始しました。
また、自動車整備士が不足している現状に対し、従来からあるガソリン車・ディーゼル車に加えて、電気自動車(EV車)、ハイブリッドカー、水素自動車など環境対応車両が様々な場面で利用されるようになってきています。多種多様な自動車の点検・整備に応えられるメカニックの需要は、今後ますます増加する見通しです。
それに加えて、自動車メーカー各社が注力している自動運転の技術、IoT技術を応用したコネクテッドカー(常にネット接続され、現状で最良のルートの割り出しなどを行ってくれる車両)など、自動車とIT技術の結びつきは強まっており、これからのメカニックは以前よりも広範囲の知識とより高度な専門性を身に着ける必要があります。このことをポジティブに捉えられる人材であることも、自動車整備士として長く従事する上で重要なポイントの1つであると言えるでしょう。
2019年4月に施行された特定技能制度ですが、当初想定された受け入れ人数を大幅に下回っているのが現状です。自動車整備業において2019年の受け入れ見込み人数は300~800名でしたが、同年11月時点での特定技能「自動車整備業」の交付者数はわずか1名でした。2020年3月時点では自動車整備分野において37名となっています。なお、受け入れ地域に関しては東京・大阪などの大都市圏に特定技能外国人が集中することを避け、業種特有の問題を考慮した人材配置を行うとしています。
特定技能制度が想定よりも活用されていない原因は複数考えられます。まず1つ目に、日本の受け入れ体制・送り出す側の国の制度が十分に整っていないことが挙げられます。現状として、日本での労働を希望する労働者が制度の不整備により出国できず、足止めされるケースがあります。2つ目はそもそもの希望者があまり多くないことです。日本語の試験や、これから従事する業種の勉強など、少なくとも半年間は勉強時間を作らなければならず、その間フルタイムでの労働と勉強の両立は困難な場合があります。そのような状況で、すぐに給与が手に入る国内での就業を選択するケースも見受けられます。
なお、特定技能「自動車整備業」における自動車整備士の受け入れ見込み人数は、2030年までに最大7000人と予想されており、業務効率化の施策・国内人材の確保・外国人整備士の受け入れなどをすべて行ったとしても人員不足解消は難しいとされています。
特定技能1号「自動車整備業」の業務内容
自動車整備業は以下の3業務にカテゴリ分けされています。
- 自動車の日常点検整備
- 自動車の定期点検整備
- 自動車の分解整備
主な作業内容は下記の通りです。
1.自動車の日常点検整備 | ステアリング装置・ブレーキ装置・エンジン装置など自動車の走行に関係する車体のあらゆる箇所の日常的な整備 |
2.自動車の定期点検整備 | ステアリング装置・ブレーキ装置・エンジン装置など自動車の走行に関係する車体のあらゆる箇所の定期的な整備(法定点検=定期点検・車検) |
3.自動車の分解整備 | ステアリング装置・ブレーキ装置・エンジン装置など自動車の重要部品の取り外しを伴う整備、改造 |
これらには、自動車をお持ちの方でしたら馴染みの深い「定期点検(法定点検)」や「車検」も含まれます。
特定技能「自動車整備分野」要件
自動車整備分野において特定技能1号の在留資格で受け入れる外国人は、次の試験に合格した者又は自動車整備分野の第2号技能実習を修了した者、と定められています。
- 「自動車整備分野特定技能測定試験」又は「自動車整備士技能検定試験3級」
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」
特定技能評価試験とは?
自動車整備分野特定技能測定試験では学科試験と実技試験の両方を受験する必要があります。
試験項目は学科・実技それぞれ下記の通りです。
学科 | 構造、機能及び取扱法に関する初等知識 点検、修理及び調整に関する初等知識 整備用の試験機、計量器及び工具の構造、機能及び取扱法に関する初等知識 材料及び燃料油脂の性質及び用法に関する初等知識 |
実技 | 簡単な基本工作 分解、組立て、簡単な点検及び調整 簡単な修理 簡単な整備用の試験機、計量器及び工具の取扱い |
「自動車整備分野特定技能評価試験について」(一般社団法人日本自動車整備振興会連合会)
参考資料文献まとめ
「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」( 法務省 )
「各四半期末の特定技能在留外国人数」(法務省)
「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」(外国人材の受入れ・共生に関する 関係閣僚会議)
「自動車整備分野特定技能評価試験実施要領」(令和元年11月 国土交通省 自動車局 整備課)
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は「特定技能」の中で「自動車整備業」分野に関する概要や、要件をお伝えしました。自社で特定技能外国人の雇用を検討されている場合は、「支援計画」の策定実施や特定技能ビザ(在留資格)申請に必要な書類、また特定技能外国人を雇用する企業をサポートする「登録支援機関」の存在など、多くの知識が必要になります。よろしければ以下の記事をお役立てください。
別記事:「今さら聞けない・・・制度の基本と実情「特定技能」制度」
別記事:「登録支援機関の役割とは?」
別記事:「特定技能1号に必須!具体的な支援内容とは?」