2019年4月より新設された「特定技能」の就労ビザ(在留資格)で働く外国人は、日本国内に3,987人いるとされています。(参照元:厚生労働省「特定技能1号在留外国人数(令和2年3月末現在)」出入国在留管理庁)一方で、1993年に創設された「技能実習制度」は2019年10月末時点で383,978人が日本国内で技能実習生として活動していると報告されています。(参照元:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成30年10月末現在))
技能実習制度の分野と特定技能の就労できる14分野は共通しているものも多く、また技能実習から特定技能に移行できる措置もあります。そこで、今回は特定技能と技能実習の違いについてお伝えします。
「技能実習」と「特定技能」の目的
技能実習制度と特定技能には似ている部分はありますが、明確に違うものがあります。それはそれぞれの目的です。以下でそれぞれのねらいについて説明します。
技能実習制度
技能実習制度の目的は、「日本の技術や知識を発展途上国など海外に移転することで国家発展に協力すること」を目的として設立された制度です。日本が主導して技術習得の機会を他国に提供することで国際社会の関係性や発展に寄与する目的があります。技能実習制度では、技能実習生が出身国では習得困難な技術や知識を日本で習得し、学ぶ場を企業が提供します。つまり、労働力確保の制度ではなく、あくまで技能実習生が日本において技術や知識を学び海外に技術移転し国際貢献するための制度です。
参照元:「技能実習制度運用要領~関係者の皆様へ~」厚生労働省
特定技能
「特定技能」は日本国内の深刻な人手不足を補う即戦力のための在留資格として新設されました。技能実習生は母国の送り出し機関(日本の企業や監理団体に技能実習生を紹介する機関)にて日本語教育や日本の企業文化などを学び日本に来日しますが、特定技能は「相当程度の知識若しくは経験を必要とする技能」が必要なため技能試験や日本語試験で能力を測定し合格しないと特定技能就労ビザ(在留資格)の取得はできません。つまり、特定技能は人手不足の業界で即戦力として働けると認められた外国人のみが取得できる就労ビザ(在留資格)なのです。
技能実習制度と特定技能の違い
技能実習制度と特定技能が創立された目的の違いについて説明しました。続いては技能実習制度と特定技能の具体的な違いを項目毎に説明します。
在留期間
技能実習生の在留期間(日本に滞在できる期間)は更新をすることができれば最長5年です。技能実習制度では入国して1年目の期間は「技能実習1号」のビザ(在留資格)を技能実習生に与えます。その後、2年目から3年目までは「技能実習2号」を、4年目から5年目までは「技能実習3号」のビザ(在留資格)で日本に滞在できます。
特定技能は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類の就労ビザ(在留資格)があります。「特定技能1号」は更新をすることができれば同様に最長5年間、特定技能2号は在留期限を更新し続けることができれば無期限で日本に滞在することができます。
受け入れ可能な業種
技能実習生を受け入れ可能な業種の数は80種類(2020年3月時点)です。特定技能は特定技能1号が14業種、特定技能2号が2業種です。具体的には以下の表をご覧ください。
【技能実習】
業界 | 業種 |
建設業 | さく井、建築板金、冷凍空気調和機器施工、建具製作、建築大工、型枠施工、鉄筋施工、とび、石材施工、タイル張り、かわらぶき、左官、配管、熱絶縁施工、内装仕上げ施工、サッシ施工、防水施工、コンクリート圧送施工、ウェルポイント施工、表装、建設機械施工、築炉 |
農業 | 耕種農業、畜産農業 |
漁業 | 漁船漁業、養殖業 |
食品製造 | 缶詰巻締、非加熱性水産加工食品製造業、食鳥処理加工業、加熱性水産加工食品製造業、水産練り製品製造、牛豚食肉処理加工業、ハム・ソーセージ・ベーコン製造、パン製造、そう菜製造業、農産物漬物製造業、医療・福祉施設給食製造 |
機械金属 | 鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、仕上げ、機械検査、機械保全、電子機器組立て、電気機器組立て、プリント配線板製造 |
繊維衣服 | 紡績運転、織布運転、染色、ニット製品製造、たて編ニット生地製造、婦人子供服製造、紳士服製造、下着類製造、寝具製作、カーペット製造、帆布製品製造、布はく縫製、座席シート縫製 |
その他 | 家具製作、印刷、製本、プラスチック成形、強化プラスチック成形、塗装、溶接、工業包装、紙器・ダンボール箱製造、陶磁器工業製品製造、自動車整備、ビルクリーニング、介護、リネンサプライ |
社内検定型 | 空港グランドハンドリング |
以上の80種類の業種で技能実習生を受け入れることが可能です。実際にはさらに細分化された144種の作業で技能実習生を受け入れることができます。
参照元:「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧 (平成30年12月28日時点 80職種144作業)」厚生労働省
【特定技能】
特定技能1号 |
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1.建設業 |
2.造船・舶用工業 |
3.自動車整備業 |
4.航空業 |
5.宿泊業 |
6.介護 |
7.ビルクリーニング |
8.農業 |
9.漁業 |
10.飲食料品製造業 |
11.外食業 |
12.素形材産業 |
13.産業機械製造業 |
14.電気電子情報関連産業 |
特定技能2号 |
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1.建設業 |
2.造船・舶用工業 |
今まで外国人は単純作業が禁止されていました。「特定技能」以外の就労ビザ(在留資格)は専門性や学歴などが重視されたものが多く、単純作業も含めた業務ができる「特定技能」は単純作業が多い業界にとって魅力的な就労ビザ(在留資格)です。参照元:「 特定技能外国人受入れに関する運用要領」出入国在留管理庁
対応作業
技能実習生は「技術移転による国際貢献」が目的なので、専門性の高い作業のみ学ぶために従事することが可能でした。特定技能は人手不足の解消が目的なので、単純作業にも従事させることができます。しかし日本人と同様に「付随した業務」として単純作業が可能なのであって、単純作業のみに従事させるものではないので注意しましょう。
転職
技能実習生は転職は原則として許可されていません。例外として実習先が倒産した場合や、技能実習2号から技能実習3号へ移行する際の転籍は可能です。特定技能は働いている業種と同じ業種であれば転職が許可されています。
技能実習から特定技能へ移行
技能実習2号を良好に修了した技能実習生は、同業種の分野に限り特定技能1号へ移行することが可能です。具体的には特定技能1号の就労ビザ(在留資格)を取得するために必要な「技能試験」と「日本語能力試験」が免除されます。具体的な移行方法は以下の通りです。
技能実習2号の在留期限が終了する前に、管轄の地方出入国在留管理局に「在留資格変更許可申請書」と「特定技能1号」取得に必要な書類を提出することで、技能実習2号から特定技能1号に移行することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。技能実習制度と特定技能はそれぞれまったく違うものです。ただ、技能実習2号から特定技能1号に移行できる通り、技能実習制度の延長線上にある就労ビザ(在留資格)といえるかもしれません。