2019年4月に人手不足解消を目的に新設された「特定技能」の就労ビザ(在留資格)ですが、認められている14分野の中には「飲食料品製造業」があります。運用開始から1年が経過しますが、まだ周知が不十分ともいわれております。そこでこの記事では、特定技能【飲食料品製造業】の概要をお伝えします。
そもそも特定技能とは?
特定技能とは、人手不足と認められた14分野の単純労働を含む業種で働き日本に滞在することを外国人人材に許可する就労ビザ(在留資格)です。特定技能には1号と2号があり、それぞれ取得要件や滞在期間なども異なります。また特定技能は特定技能1号と特定技能2号の2種類があります。特定技能の就労ビザ(在留資格)の取得要件は、主に下記の2つです。
- 日本語能力試験に合格していること(規定あり)
- 技能評価試験に合格していること(規定あり)
詳しくは以下の記事をご覧ください。
別記事:「今さら聞けない・・・制度の基本と実情「特定技能」制度」
なお、2020年6月現在で特定技能2号が用意されているのは、建設業と造船の2業種のみです。特定技能2号は、在留期限の更新に制限はなく、要件を満たせば永住申請も展望できる在留資格であることが特徴です。
特定技能「飲食料品製造業」
飲食料品製造業は以下の1業務です。
- 飲食料品製造業全般
なお、飲食料品製造業の技能実習2号を修了することで、試験を受けることなく特定技能1号へ移行することができます。
「飲食料品製造業」の現状は?
飲食料品製造分野が特定技能14業種に指定された背景には、慢性的な人材不足や、製造業分野では多くの人手が必要なことなどがあります。「飲食料品製造業」は日本人・外国人問わず労働者の受け入れ人数が多い業種です。
2013年に1.48倍だった飲食料品製造業の有効求人倍率は、2015年には2.11倍をマークし、2017年には2.78倍に達しています。この傾向が続く場合、2030年には約7,3000人の人材不足が発生すると考えられます。深刻化している人材不足の打開策として、製造業各社で労働環境の見直し、飲料・食品工場内の安全対策強化、日本国内での採用活動などに力を入れてきました。しかし、国内の人材だけでは必要人員数を確保できず、特定技能制度による外国人労働者の受け入れを開始しました。
価格の安い輸入食品が普及して久しいですが、安全性や高品質、衛生的な印象から国内産の飲食料品の需要は依然高いままです。飲食料品製造業は日本の経済を支える主な産業の1つであり、必要人員数が多く必要なことから、国内の雇用をも支えていると言えます。
日本の食品メーカーは世界でも存在感を示しています。サントリーホールディングス、アサヒホールディングス、キリンホールディングス、日本ハム、明治、山崎製パン、マルハニチロホールディングスなどの飲料・食料メーカーは世界の食品メーカー売り上げランキングの50位以内にランクインしており、海外進出も増加傾向にあります。
ただし、日本国内の飲食料品製造業は上記のような大きな企業だけではなく、寧ろ中小・零細企業が支えているという側面があります。製造出荷額の過半数を中小・零細企業が占めており、企業数ベースで見ると実に99%が中小・零細企業です。飲食料品製造業の事業所は減少傾向ですが、出荷額は増加傾向にあり、従業員数は減少し続けています。企業の成長を続けるためには人材の確保が急務となっています。
さて、2019年4月に施行された特定技能制度ですが、当初想定された受け入れ人数を大幅に下回っているのが現状です。飲食料品製造業において2019年の受け入れ見込み人数は5,200~6,800名でしたが、同年11月時点での特定技能「飲食料品製造業」の交付者数はわずか247名でした。2020年3月時点では飲食料品製造分野において1,402名となっています。1,402名という数字は、特定技能全14業種中、2番目に受け入れ人数が多い「素形材産業分野」の437名の3倍以上の人数です(同時期比較)。これには前述したとおり、製造業における必要人員数がそもそも他業種に比較して多いことが関係しています。なお、受け入れ地域に関しては東京・大阪などの大都市圏に特定技能外国人が集中することを避け、業種特有の問題を考慮した人材配置を行うとしています。
下図は2019年の都道府県別受け入れ人数のグラフですが、東京都を中心とした関東圏が全体的に突出しており、他に福岡や愛知・静岡、北海道が目立ちます。これらの地域は飲食料品のメーカー、工場、若しくはその両方が集中していると考えられます。
特定技能制度が想定よりも活用されていない原因は複数考えられます。まず1つ目に、日本の受け入れ体制・送り出す側の国の制度が十分に整っていないことが挙げられます。現状として、日本での労働を希望する労働者が制度の不整備により出国できず、足止めされるケースがあります。2つ目はそもそもの希望者があまり多くないことです。日本語の試験や、これから従事する業種の勉強など、少なくとも半年間は勉強時間を作らなければならず、その間フルタイムでの労働と勉強の両立は困難な場合があります。そのような状況で、すぐに給与が手に入る国内での就業を選択するケースも見受けられます。
なお、特定技能「飲食料品製造業」における外国人労働者の受け入れ見込み人数は、2023年までに最大3,4000名と予想されており、業務効率化の施策・国内人材の確保・外国労働者の受け入れなどをすべて行ったとしても人員不足解消は難しいとされています。
特定技能1号「飲食料品製造業」の業務内容
飲食料品製造業は以下の1業務です。
- 飲食料品製造業全般
これには、
- 酒類を除く飲食料品の製造・加工
- 安全衛生
などの業務が含まれます。
特定技能「飲食料品製造業」要件
飲食料品製造分野において特定技能1号の在留資格で受け入れる外国人は、次の試験に合格した者又は飲食料品製造分野の第2号技能実習を修了した者、と定められています。
- 「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験」(国内・国外どちらからでも受験可能)
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」
特定技能評価試験とは?
飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験では学科試験と実技試験の両方を受験する必要があります。
試験項目は学科・実技それぞれ下記の通りです。
学科 | 食品安全・品質管理の基本的な知識 一般衛生管理の基礎 製造工程管理の基礎 HACCPによる衛生管理 労働安全衛生に関する知識 |
実技 | 食品安全・品質管理の基本的な知識 一般衛生管理の基礎 製造工程管理の基礎 HACCPによる衛生管理 労働安全衛生に関する知識 |
また、飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験は国内・国外どちらからでも受験することができます。ただし、国内・国外それぞれ受験資格が異なる箇所があるため注意が必要です。
※HACCP(危害分析重要管理点)=Hazard(危害),Analysis(分析),Critical(重要),Control(管理),Point(点)
HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
出典:「HACCP(ハサップ)」(厚生労働省)
国内試験の受験資格
- 在留資格を有し、試験日において、満17歳以上である
- 退去強制令書の円滑な執行に協力するとして法務大臣が告示で定める外国政府又は地域の権限ある機関の発行した旅券を所持している
国外試験の受験資格
- 試験日において、満17歳以上である
試験内容の詳細や国内・国外試験の概要等は下記リンク先にてお確かめください。
「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験について(国内試験)」(OTAFF一般社団法人外国人食品産業技能評価機構)
「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験について(国外試験)」(OTAFF一般社団法人外国人食品産業技能評価機構)
参考資料文献まとめ
「新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」( 法務省 )
「各四半期末の特定技能在留外国人数」(法務省)
「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の充実について」(外国人材の受入れ・共生に関する 関係閣僚会議)
「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験実施要領」(農林水産省食料産業局)
「食品製造業をめぐる情勢」(農林水産省)
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は「特定技能」の中で「飲食料品製造業」分野に関する概要や、要件をお伝えしました。自社で特定技能外国人の雇用を検討している場合は、「支援計画」の策定実施や特定技能ビザ(在留資格)申請に必要な書類、また特定技能外国人を雇用する企業をサポートする「登録支援機関」の存在など、多くの知識が必要になります。よろしければ以下の記事をお役立てください。
別記事:「今さら聞けない・・・制度の基本と実情「特定技能」制度」
別記事:「登録支援機関の役割とは?」
別記事:「特定技能1号に必須!具体的な支援内容とは?」