日本語ネイティヴ同士でも、掛け違いの会話、誤認識、意思疎通が計れないというコミュニケーショントラブルは起こるはずです。これが、日本語学習者である外国人社員であれば、なおのこと、対処しなければならないケースが増えます。
たとえば、あなたは、外国人社員から以下のようなことを伝えられた場合、どのように対処するでしょうか。
外国人スタッフAさん:
「あの、社長、すみません。私は友だちは、病気ですから、会いたいです。なので、来週、仕事は休んでいいですか。自分のタスクは明日終わりましたから。お願いします。」
恐らく、あなたが抱く疑問としては、
- 「友だちはだれ?」
- 「どこにいるの?入院してるの?」
- 「来週のいつ休むの?何日?」
- 「何の仕事が終わったの?」
- 「仕事を明日終わらせるってこと?」
こうしたことが挙げられると思います。
休暇申請
冒頭から話が少し逸れますが、外国人採用の際に気を付けるべきこととして、この休暇申請については、しっかりと会社としてのルール決めをすることが大切です。
申請方法
- 書面?メール?口頭でも可能?
- 休暇取得希望日、理由、緊急連絡先、(念のため)行き先?申請内容は?
申請の期限
- 申請は取得日の何日前?
- 病欠や緊急の場合はどのように申請?
- やむを得ない緊急性のある休暇の定義は?
休暇取得前のルール
- 休暇取得前には取るべき行動は?(朝礼で共有?指定の場所に記載?)
- 業務引継ぎ、代理担当者との調整はいつまでに?
こうしたことのルール決めと事前周知の徹底が大切になります。
外国人社員の報連相
本題に戻りますが、この外国人社員の報連相には、言語スキルが要因となり、コミュニケーションを難しくする点があります。
外国人スタッフAさん:
「あの、社長、すみません。私は友だちは、病気ですから、会いたいです。なので、来週、仕事は休んでいいですか。自分のタスクは明日終わりましたから。お願いします。」
この時点で、外国人社員は、悪気はなく、まず「お休みできるか相談」したい考えだとします。しかし、この文章では、「相談」の域を超えて、自ら「休暇取得」判断をし、結論を出しているように聞こえてしまいます。
日本人社員であれば、ここまで直接的なことは言わず、
社長、ご相談があります。実は故郷の友人が病に倒れたと昨夜連絡を受けまして、遠方にいるものですから週末お見舞いに行きたいと考えています。直前の相談で申し訳ないのですが、来週明け月曜日の復路分が午後着のため、この日をお休みいただきたい・・・
と、ここまで丁寧に説明するか個人差はありますが、相談の仕方として、上司である相手から「休暇を取りなさい」という提案を引き出す話し方が想像できるかと思います。
これは何とも日本語の独特の言い回しが関わってくるもので、この感覚は、外国人社員には、はっきり言ってありません。「直接的」よりも「間接的表現」が好まれる日本文化の典型が現れています。
よく海外の人が日本人は本音が分からない、というのはこれが要因の一つとも考えられます。反対に、外国人が日本語で話してくると、すごくメッセージが直接的で日本人側が違和感を覚えるのは、これによるものです。
外国人社員の報連相との向き合い方
外国人雇用をするうえで、この文化差を知らずして、頭ごなしに注意することでは、外国人社員にとって報連相のスキル習得、真意を伝えることができなくなります。
先の外国人社員Aさんの相談に対して、
- 「友だちはだれ?」
- 「どこにいるの?入院してるの?」
- 「来週のいつ休むの?何日?」
- 「何の仕事が終わったの?」
- 「仕事を明日終わらせるってこと?」
などと、責め立てるような聞き方をしては、本人が躊躇してしまうでしょう。こうしたときには、何が言いたいのか、整理をする聞き方を身につけることが解決のカギとなります。具体的には、
- 話の趣旨を理解していることを表す
- あいまいな表現を明らかにして話すよう促す
- 時制の整理(過去形?未来完了形?)
これら3つのポイントが重要です。
外国人スタッフAさん:
「あの、社長、すみません。私は友だちは、病気ですから、会いたいです。なので、来週、仕事は休んでいいですか。自分のタスクは明日終わりましたから。お願いします。」
- 「友だちが病気なんですね、心配ですね。」
- 「来週の何日にお休みをしたいんですか?」②
- 「今の仕事はいつ終わりますか?」③
→②③の回答をふまえ・・・
「わかりました。来週月曜日に、病院にいる友だちに、会いに行くんですね」
「それでは、明日までに、この仕事をしっかり終わらせてください。」
「明日の終業時に、もう一度仕事の状況を報告してください」
あくまで、対社会人とのやり取りであるため、ここまでやさしく向き合うのは甘い、子ども扱いだ、こんな丁寧に対応をしていられない、と感じる方もいると思いますが、そうしたご意見は否定しません。
理想的な対処法として例を挙げましたが、何より大切なのは前述しました、3つのポイントを意識すること、特に入社したてのときには、この報連相を徹底して指導、対処する必要があります。
時間はかかりますが、上司として、社員が報連相すべき事項は何か、始めのうちに習慣化することを意識してください。海外では、日本ほどOJT(教育担当者)新人研修の文化は根付いていないため、日本の商習慣の常識は海外のそれとイコールの関係ではありません。
また、これに対し「日本の商習慣が優れている」という誤解は持つべきではなく、日本文化の特長の一つであるという認識で留めるべきなのです。
まとめ
日本人(日本語)の持つ、話さなくてもわかる文化、空気を読む文化、というのは、学問的に「ハイコンテクスト文化」に属するものと言わています。(対義語「ローコンテクスト文化」)
- ハイコンテクスト文化・・・「以心伝心」で意思伝達が行われる傾向が強い文化
- ローコンテクスト文化・・・「言語」による意思伝達に対する依存の強い文化
これらはどちらに優劣があるわけでもなく、言語の特徴のひとつと言われています。例えば、ご自身で身に覚えがあるかもしれませんが、机の上にある塩を取ってほしいときに、
「塩」
と一言だけ言って、「取ってほしい」ことが伝わるのは日本語の特徴です。
多くの言語では、
「あなたは私に塩をとってくれますか」
と伝えるのが、世界言語の一般的な表現です。(多少の違いはあれど)
日本人が「言わなくてもわかるだろ!」と思うことは、グローバルスタンダードに考えて、ほとんど海外では通用しないことを、本記事のまとめとして締めくくります。