外国人雇用‐入社後のケア
特定技能制度においては、外国人社員及び上司との定期面談が、支援責任者の責務として定められています(3ヵ月に1回以上)。それほど、外国人社員と向き合う「時間」は、雇用者ならびに登録支援機関のタスクとして重要視されています。
労働基準法を順守しているか、法的観点から視るだけでなく、外国人社員のメンタルヘルスケアの観点から、彼らの「働き方」「生活の仕方」をケアすることも大切です。
貴社がすでに、外国人雇用を始める前から、人事評価制度を設け、定期面談の機会があるのであれば、さほど問題は無いかと思いますが、製造業や現場の仕事においては、一般的にそのノウハウは不足しているようです。
業界や職種によって、また在留資格によっても、その頻度、義務の有無などは異なりますが、一般的な外国人社員との面談のポイントについて解説します。
外国人社員との面談‐ポイント整理
言語
そもそも、面談とは、外国人社員が十分に理解できる言語である必要があります。日本語で実行する場合、採用する外国人社員の日本語力をしっかり把握し、必要に応じて補助ツールを準備しておく必要があります。
話の題材
そもそも、「面談」において何を話すか、特定技能でいえば「支援計画」に定められる「生活オリエンテーション」で示される「円滑に社会生活を営めるよう、日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明」が適切かと思われます。
この他の題材は後編の記事で紹介します。
頻度
特定技能で定められる3ヵ月に1回とは、何を基準にしているものか、はっきり定義したものはないですが、たとえば前述の「生活オリエンテーション」の内容においては、むしろ入社後の1ヵ月の間でしっかりケアをする必要があります。
また、外国人社員にとって日本在住が初めての経験である場合には、入社後1ヵ月は週次の定期面談を実施することをおススメします。早期離職を避けるためには、入社から~3ヵ月の間、取り分け、入社後1ヵ月のケアは重要です。
この1か月間で、お互いのことを深く知る機会を設け、外国人社員が相談しやすい環境づくりをすることが、のちの外国人社員の勤続につながります。
面談時間
面談時間に関する定まった目安はありませんが、15分~60分(長くとも)くらいを想定しておく必要があります。(なお、特定技能の支援計画に定める「生活オリエンテーション」の説明については、最低8時間と規定)
前述の入社から1ヵ月間の面談については、外国人社員の言語レベル、個人差にあわせて、15分単位で時間を調整していくと良いでしょう。
面談に必要なもの
面談においては、筆記用具だけではなく、パソコンやタブレット(スマートフォン)を用意することをおススメします。
- 生活オリエンテーションを補足的にイラストなどで示す場合
- 外国人社員の日本語がつたない場合に、翻訳サイトなどで補助する場合
(例:Google翻訳の活用:母国語⇔日本語) - 外国人社員が言及する質問や相談内容が何を示すかわからない場合に検索する
(これはかなりケースとして多いはずです)
こうしたケースにおいて、面談の流れをスムーズに補助する役割を担います。
とくに3.については、生活面の悩みを雇用者側が理解するには異文化理解も深く関わってくるため、しっかりと聞き取れる体制を作ることが大切です。
たとえば、「ゴミ出しの注意をされているがルールが分からない、注意される」悩みを外国人社員が抱えている場合、そもそも母国では「ゴミの分別のルールが無い」という異文化背景を理解し、指導する必要があります。
こうしたときに「ゴミの出し方がわかりません」と聞かれ、あなたが「曜日と時間を守って出してね」とアドバイスしては、意味がありません。こうした生活相談などは、日本語スキルが高い外国人人材でも、細かにニュアンスを伝えきれないこともあります。
面談では、必要に応じて、外国人社員のスマートフォンを面談の場に持ち込んでもらい、本人の相談したいこと(面談者に見せたいもの、例:買いたいもの、アパートの欠陥部分、注意を受けた内容等)を話してもらうことも、円滑に面談が進む方法のひとつです。
面談のコツ
これらに加えて重要なこととして、
- 1対1のマンツーマンによる面談を実施すること
- 面談をやる趣旨を説明する
- 時間を決めて行う
- 面談室を適切な環境に整える
- 正面で向き合うだけでなく、座り方を変えてみる
こちらの5つを挙げます。(以下各項番の解説)
1.1対1のマンツーマンによる面談を実施すること:
面談は複数社員と行わず、1対1で実施します。複数人で同時に行うと確実に個々人の意見を吸い上げることができず、とくに日本語スキルが他より劣る外国人社員については、その発言の機会はほぼ無いに等しくなります。
2.面談をやる趣旨を説明する:
面談の趣旨、ねらいについて、事前にしっかり説明をしましょう。面談の意図が伝わらないと、「雑談タイム」「自分の希望を伝える時間」という誤った解釈を持たれかねません。
また、面談を〇日にします、とだけ宣言すると、クビを宣告されるのか、何か良くない知らせがあるのか、と不用意に外国人社員に不安を与える可能性があります。「〇日△時に、業務の振り返りについて定期面談をしますので時間を空けてください」と明確に示してください。
もう1点として、面談設置から実施まではなるべく時間を空けない方が良いでしょう。時間を空けてしまうと、不必要に面談で話したいことを準備したり、業務に支障が出ることがあります。
3.時間を決めて行う:
面談は、何分間のうちに終えるのか、時間を明確にしましょう。面談内容にはよりますが、目標時間を設定し行うことは、外国人社員と雇用者お互いの時間を無駄にしないために必要であり、メリハリをつけることで、ダラダラと話をしてしまうことを防ぎます。もし大幅に超過することがあれば、翌日に再度時間を設けるなどの対応を取ることをおススメします。
4.面談室を適切な環境に整える:
「面談室」は、音漏れが起きない個室で、イスと机があることが最低条件であるとは言うまでもありませんが、強調します。
極端に狭かったり、暗かったり、衛生面で問題がある部屋で実施することは、面談の質自体に影響が出ますので、社内にこのような環境が無い場合は別の対策を考えます。
また昼休みの喫茶店や、終業後の居酒屋での会話を面談とみなすかどうか、明確な判断軸はありませんが、常識の範囲内で、あくまで外国人社員にとって話しやすい環境を作る努力が求められます。(食事の場で話すこと自体は、外国人人材にとってはコミュニケーションを取りやすい場であることは間違いありません。また、これは面談内容によってケースバイケースです。)
5.正面で向き合うだけでなく、座り方を変えてみる:
面談というと、正面に向き合って「面接」のような環境を想像する方がいるかもしれませんが、心理学的に、正面に座るよりも、斜め、横に座ることで、安心して話ができると言われています。
また、面談者がお互い何も持たずに、ただ話し合うだけの環境は不要なプレッシャーを与えやすいためノートパソコンやタブレットなどを持参しお互いが焦点を合わせる対象物があると、効果的な面談となり得ます。
入社直後の面談
入社直後の面談では、お互いがまだよく知り合えていない関係であるため、気の利いたアイスブレイク(緊張をときほぐすための「つかみ」、場を和ませる話)が必要です。
(日常の生活について)
- 「日本の生活はどうですか」
- 「日本に来てみて、感想はどうですか(街の雰囲気、空気、天候)」
- 「住んでいるアパートはどうですか」
- 「家族と連絡は取れていますか(通信環境、手段の確認)」
- 「休日は何か予定が出来ましたか」
- 「公共交通機関の使い方は分かりますか」
- 「同じ国籍の人のコミュニティはありますか」
こうした会話の糸口を作り、外国人社員が話しやすい環境を作ることを意識してください。これらは定期面談においても繰り返し使うことができますし、前回聞いた内容をメモして、覚えておくことで、雇用者側の「聞く姿勢」を示すことができ、面談が単発の行事ではないことを伝えることが出来ます。
また、
(目標設定につながる話)
- 「日本語はどうやって勉強していますか」
- 「日本語はどのくらいのレベル(JLPTのN1?N2?)を目指していますか」
こうしたヒアリングを初めの面談で行うことで、外国人社員が個人で持つ目標ではなく、上司に「宣言」をした目標として、お互いに目標認識を合わせることができます。
定期面談
特定技能の支援計画を参考にすれば、「生活オリエンテーション」(円滑に社会生活を営めるよう、日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明)の重要性がわかります。
- 「日本の生活で困っていることはありますか」
- 「体調や健康面など、心配なことはありますか」
- 「公共交通機関を使って、買いものなどに行きましたか」
- 「〇日間経って、仕事は慣れましたか」
- 「仕事の目標は何か持っていますか」
- 「会社のことで質問はありますか」
定期面談においては、これらの質問を参考にしてください。
定期面談において、大切なことは、
- 面談の趣旨、ねらいを明確にし続けること
- 時間にメリハリをつけること
- 必要に応じて、翻訳ツールなどを用いて外国人社員が伝えたいことを100%理解するよう努力すること
これらのことに注意して行ってください。
まとめ
上記は、あくまで参考例であり、全ての企業における「正解」ではありませんが、面談手法としては十分参考にいただけると思い、解説いたしました。面談をただ実施すれば、責務を果たせるわけではなく、その手法について考え見直すことが大切です。
面談に関する細かなマニュアルがない中で、その裁量は企業に委ねられるところがほとんどです。日本人に対してもきちんと実施をしないのに、外国人社員だけ特別扱いをするのかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは外国人雇用の観点から鑑みると、必要かつ、万全な体制を整える努力義務があると言えるかもしれません。