前向きに検討します、という日本語には、建て前と本音が隠れていることは日本人の方ならおわかりのはずです。しかし外国人にとってしたら、難解な日本語といえます。
日本企業で働く外国人にとって、日本のビジネスマナーに対して疑問に思うことが多くあるようです。例えば、名刺の渡し方、エレベーターの乗り降りの仕方、業務外のお酒の席でのマナー・・・など。
いちいち、事細かに全てのルールを雇用者側が手取り足取り教える必要があるかは、企業の裁量次第のところではありますが、こうした外国人社員のギモンに対して、投げやりな回答をしてはいけません。
- それが日本だから
- 日本にいたらしょうがない
- 周りに合わせるのが日本の美徳
こうした回答では、外国人社員から納得を得ることは出来ません。せっかく異文化理解の機会ですので、日本文化の真意の点を伝えることで、外国人社員が心から納得して、自身も行動に移せるようになることが望ましいです。
たとえば次のような「疑問」を投げかけられた場合、あなたは何と答えるでしょうか。
- なぜ自らが整理整頓するのか
- なぜ時間に厳しいのか
- なぜセキュリティが厳しいのか
- なぜ個人情報に厳しいのか
- なぜ、悪くないのに謝罪するのか
- なぜ、朝礼をするのか(「社是・経営理念」を唱和するのか)
- なぜ、直接的にものを言ってはならないのか
- なぜ個人で評価されないのか
こうした「疑問」に対して理路整然と答えることができれば、外国人社員の理解を促し、また、上司としての株が上がり、評価が変わる可能性があります。
もちろん、貴社の理念モラルに合わせたオリジナルの回答があってしかるべきものではありますが、本記事では想定されるシチュエーションとともに、回答のサンプルを以下のとおり解説致します。
なぜ自らが整理整頓するのか
日本では、小学校から、使用する教室トイレを自ら掃除することが一般的ではありますが、これは海外の常識ではありません。海外では清掃員の雇用枠があるために、自らのオフィスを清掃するという習慣も一般的ではありません。
たとえば、会議室を使用した後、机上に残ったゴミ、床に落ちた紙くずを片し、散らかったイスを戻すあなたを見て、「それはあなたの仕事なのか」と疑問を持った場合に、どのような答えができるでしょうか。
例えば、「自分で使ったものは自分で片づけるのが日本の習慣。そうすれば、次使う人が気持ちよく使うことができる。」というマインドを伝え説明ができます。
なぜ時間に厳しいのか
取引先への営業で、電車遅延により、5分の到着遅れがわかり、急いで取引先に電話し、遅れる旨を伝えると、外国人社員が「5分の遅れくらい問題ないのでは」という疑問を持ったとします。
例えば、「約束は、お客様である相手の時間をいただいていることになる。5分の遅れでも、それは仮に遅刻の原因が自分の責任でなくても、相手の時間を費やしていることにお詫びをしなければならない。」
筆者であれば、このような説明を考えます。
(しかし、はじまりの時間に厳しいわりに、終わりの時間(例:会議、定刻後の残業)にはルーズな矛盾はあります。)
なぜセキュリティが厳しいのか
情報セキュリティに厳しい日本のビジネスシーンにおいては、外国人社員が気疲れしてしまうこともあります。例えば、社内の印刷物をプリンターに置きっぱなしにしている社員を注意した場合、
「社内であっても印刷物は、放置したままにしてはならない。同じフロアで別部署と共有してプリンターを使用している場合、部署内の機密情報がある可能性がある。また、印刷物を他の人が間違って手に取り、紛失し、万が一外部に漏洩した場合の責任はあなたが取らなければならない」と説明ができます。
また、メールを送る際は、添付ファイルとパスワードを別にして送付することを理解してもらうためには、「情報セキュリティにおいては、誤送によって機密情報が社外に洩れるインシデントが一番多いため、これを全員が徹底して守らなければならない」という具体的な理由を示すことが効果的です。
なぜ個人情報に厳しいのか
社員の氏名、住所、パスポート番号などの情報が入力されたExcelファイルをパスワード管理する/個人情報が書かれた書類は即時シュレッダーで裁断することに過度な対応だと感じた外国人社員がいた場合、
「日本では個人情報保護についての法律が定められていて、この扱いには厳しく注意する必要がある。シュレッダーをせず廃棄した書類から住所の一つでも情報が外部に漏れてしまうと、身に覚えのない書類が家に届いたり、ストーカー被害などを受ける」と法的リスク、被害の事例を加え説明することができます。
なぜ、責任がないのに謝罪するのか
顧客からの営業部に対するクレームについて、関係のない管理部が1次的に謝罪対応を行った。「管理部の責任ではないのに、当事者でない人間が謝罪するのはおかしい」、と疑問を持った場合、
「代わりに謝罪をしているのではなく、クレームを受け取った会社の「代表」として、1次的に謝意を伝えることが大切である」「社員の個人に責任があるという考えよりも、会社として、相手に被害を与えたという認識を持つ考えがある」と説明します。
なぜ、朝礼をするのか
「ホワイトボードに書いてある、特に重要でもないことを、定刻に集まって朝礼することに意味はあるのか」という疑問を持った場合は、
「チームワークで協力して動くため、お互いの状況を知ることが大切」
「他人の仕事の進捗を知ることで、効率的に進めることができないか検討できる」こうした説明が考えられます。
なお、企業によっては「社是・経営理念」の唱和が習慣のところがあるとは思いますが、これについては企業ごとの理念、その理由をご説明ください。
なぜ、直接的にものを言ってはならないのか
相手先の提案に対し、結果的に断りを入れる場合においても、「前向きに検討させていただきます」「また追ってご連絡します」と伝えるべき場面において、外国人社員が「御社は選びません」「お断りします」と言った場合、
「相手の立場に立ち、やわらかい表現で、適切なタイミングで断ることが大切」
「時間を置いて回答をすることで、社内で検討をした誠意を伝える」
「口頭のみならず、書面で断わりを入れることで、相手にも整理する時間を与える」
こうした説明ができます。
なぜ個人で評価されないのか
個人主義の働き方が一般的である外国人社員にとっては、日本のチームワークを大切にする働き方には「成果主義ではない」「時間がかかりすぎる」「優秀な人材が評価されない」という疑問を持ちやすいはずです。(ただし令和の時代で、日本でも成果主義が主流となり、こうした組織の方が少なくなったかもしれませんが)こうした場合、
「個人の成績結果を組織でカバーし合うため、最終的な責任は組織全体が取る」
「個人へ過度なプレッシャーを与えず、協働して良いものを作り上げることが優先」
「組織、企業としての成果を重視し、個人評価はそのあと。人事評価でしっかりとあなたを評価する」
このような説明ができるのではないでしょうか。
まとめ
上記の説明は、どれも、文字にしてみれば、すぐに説明できそうなものですが、いざ、外国人社員から疑問を投げかけられたときに、説明できるかというと、これが実は結構難しいのです。
貴社なりの、あなたなりの説明、答えを考えるきっかけになれば幸いです。