外国人雇用をなさる企業の皆様には、外国人社員との日本語によるやり取りに苦労されている方も多いかと思います。みなさんは「やさしい日本語」というものをご存じでしょうか。
「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人にもわかりやすい日本語のことです。 東京都オリンピック・パラリンピック準備局では以下の説明があります。
「やさしい日本語」とは
1995年1月の阪神・淡路大震災では、日本人だけでなく日本にいた多くの外国人も被害を受けました。その中には、日本語も英語も十分に理解できず必要な情報を受け取ることができない人もいました。
そこで、そうした人達が災害発生時に適切な行動をとれるように考え出されたのが「やさしい日本語」の始まりです。そして、「やさしい日本語」は、災害時のみならず平時における外国人への情報提供手段としても研究され、行政情報や生活情報、毎日のニュース発信など、全国的に様々な分野で取組が広がっています。
世界には、多くの言語があります。すべての外国人に対して母語で情報を伝えることが一番理想的ですが、現実的には不可能です。そこで、言語の選択という問題が生じます。
多言語対応協議会では「多言語対応の基本的な考え方」を2014年に定め、「日本語+英語及びピクトグラムによる対応を基本としつつ、需要、地域特性、視認性などを考慮し、必要に応じて、中国語・韓国語、更にはその他の言語も含めて多言語化を実現」とし、取組を進めています。
しかし、言語の中でも難易度があるため、とりわけ、多くの外国人が理解できる日本語においては、できるだけわかりやすい情報発信(「やさしい日本語」)が求められています。今、期待を集めている「機械翻訳」においても、いったん分かりやすい日本語に直してから外国語に訳した方が意味の通る訳文になります。「やさしい日本語」は、そのような効果も期待されます。
東京都オリンピック・パラリンピック準備局
「やさしい日本語」の代表例としては、以下が有名です。
NHK NEWS WEB EASY やさしい日本語のニュース
やさしい日本語の例
日本人の私たちになじみのない、違和感を感じるものかもしれませんが、日本語学習者にとっては、とても大切な情報ツールとなるのが、「やさしい日本語」です。
すでにこの「やさしい日本語」は、地方自治体のハザードマップなどでも配信され、また、大学や教育機関でその研究が進められています。
たとえば、以下のような日本語は、どのような「やさしい日本語」に置き換えることができるでしょうか。
「緊急避難情報です、いますぐ高台に向かい、身の安全を確保してください」
たとえば、2つの短い文章にして以下のような表現ができるはずです。
「きんきゅうです、いますぐにげてください」
「たかいところにいき、あんぜんにしてください」
ビジネス・生活面で押さえておきたい「やさしい日本語」集
- 「和暦」→西暦にする
- 「時間(午後5時)」→24時間(17:00)で表記
- 「土足厳禁」→「くつをぬいで、入る」
- 「再度」→「もういちど」
- 「控除」→「さし引く」
- 「遅延」→「おくれる」
- 「超過分」→「こえたぶん」
- 「服用する」→「くすりをのむ」
- 「多少/少々」→「すこし」※曖昧な表現は避ける
- 「原則使用しない」→「使用しない」※曖昧な表現を避ける
ポイントの整理
優しい日本語のポイントとしては
- 単語や、文の構造を分かりやすくする
- 一つの文を短くする
- 難しいことばは簡単なことばに置き換える(高台→高いところ)
- 文末を統一する(「です」「ます」「してください」で終わる)
- 漢字はなるべく使用しないか、「ふりがな」をふる
- 二重否定を使わない(例:「行われないわけではないです」)
- 必要に応じてイラストを使用する
こうしたポイントが挙げられます。
やさしい日本語に変換する練習
身近なビジネスシーンを想定し、以下の文章を、あなたなりに、「やさしい日本語」に変換してみてください。
「この書類スキャンして、先方にメールするとき、本社もCc:で、例のフォルダに保管ね」
変換の例:
「この書類スキャンして、先方にメールするとき、本社もCc:で、例のフォルダに保管ね」
問題点:①読点(、)が連続している、②「曖昧な語がある」③指示語が不明瞭「~ね」
- 「この書類をプリンターでスキャンしてくれますか?」
- 「スキャンした書類を〇〇社にメールを送ってもらえますか?」
- 「メールを送るときは、本社もCCに入れて送ってください」
- 「△△という名前のフォルダにそのデータを保管してください」
始めの文章よりも長く時間がかかるようですが、結果的に指示内容が伝わっていなかった場合更に時間を要することも考えられます。あなたの「日本語」に原因があるかもしれませんので、時間をかけて、お互いが理解しあえる「やさしい日本語」のノウハウを構築することを心がけてください。
つまり、外国人採用ののち、雇用者と外国人人材が円滑に日本語コミュニケーションを取るマニュアルは始めから無い、ということです。なお、社内専門用語など、業務上必要とされるものについては、事前に用語集を作っておくことをおススメします。
まとめ
「難しい日本語」の最たるものの例として、「これいい感じによろしく」ということばがあります。日本人同士でさえ、この指示が来たら、ぽかんとしてしまう部下が想像できます。
きっと、外国人雇用をしたのちは「いちいち説明しないと分からないのか」「何で指示が伝わらないのだろう」 とフラストレーションに感じることもあるかとは思いますが、原因は相手だけでなく、雇用者自身も見直すきっかけになれば幸いです。
「やさしい日本語」には正解を求めるよりも、わかりやすく伝えることの「意識」を持つことが大切になります。外国人社員の日本語スキルにあわせて、適切な日本語を使用できるように心がけてください。