外国人の採用を考える企業にとって、制度の大枠を理解することは容易ではありません。いざ「外国人雇用」と検索をしても、EPA、技能実習、特定技能、国際人文技術・・など様々な受入れ制度や在留資格のワードが並び、混乱される方も多いはずです。本記事では、基礎の基礎から学べる制度概要について解説します。
今回のテーマは「外国人採用を取り巻く制度概要」です。これまで新聞やテレビで一度は聞いたことがある「EPA」、「技能実習」、「特定技能」というキーワードを基本事項をおさえて解説します。
EPA
EPA(Economic Partnership Agreement): 経済連携協定
貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定のこと
(外務省ホームページより)
日本は2019年2月現在、18か国と締結をしています。(参考:外務省ホームページ)
このEPA制度においては、業界が医療と福祉に限定されており、介護福祉士候補生と看護師候補生の外国人受け入れが2010年頃から始まりました。この制度は、インドネシア、フィリピン等、東南アジア諸国からの「候補生」が来日、就労し、国家資格取得を目指す制度です。
技能実習や特定技能と違う点として、この受入制度は「送り出し国」である東南アジア諸国からの要望により人材を受け入れた制度であることです。送り出し国にとっては「人口増加による失業対策」と「外貨獲得」の目的がありました。
EPAは日本の人材不足の解決策としてできたものではない、という点がポイントです。しかし、現在においては「人材不足」が年々社会問題化し、後付けのような形でEPA制度による人材確保が注目されている、という実情です。
在留期間については、最大5年と定められる技能実習や特定技能と違い、当該資格に合格した場合は、日本国内で在留期間を延長更新し、働き続けることができるものです。
メリットの多い制度に見えますが、「候補生」にとっては、「日本人と同じ内容で資格試験を日本語で受ける」という言語の壁が立ちはだかり、受け入れ当初から、その合格率が低い点が問題視されていました。
また、合格者たちにとっては、母国や家族の存在が大きく、日本で住み続けることを選択する外国人が少ないのが現状です。受け入れから10年ほど経過し、多くの合格者(約8~9割)は母国への帰国を選択し、労働力として定着していない点、彼らの日本におけるキャリアプランを示せていない点が課題とされています。
主な関連組織:外務省、厚生労働省、国際厚生事業団(JICWELS)
技能実習
我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする。
厚生労働省ホームページ
業種一覧はこちら (厚生労働省資料)
技能実習のポイントは、 基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」 という点です。つまり、「人材不足だから外国人を受け入れる」という考えではないのです。
建て前は、「母国への技術移転」であるものの、現状は、多くの業界において、「人材不足の補填」の認識をされており、一部では「安価な労働力の確保策」として広まっていることが問題視されています。
また、昨今のテレビや新聞の報道にあるように、雇用者側である日本人による、パワハラ、セクハラ、賃金の未払い、パスポートや在留カードの没収など、不当な扱いを受ける実習生が増えていることから、国際社会から「奴隷制度」と非難されています。
これに加え、悪徳な仲介業者(ブローカー)、東南アジア諸国現地「送り出し機関」による、実習生に対する法外な手数料徴収、日本国内で実習生の管理を担う「監理団体」による虚偽の書類提出など、人材ビジネスを悪用する者が増えています。
こうしたずさんな体制によって、実習生が正当な実習活動を行えず、失踪事件が多発していることも社会問題の一つとなっています。こうした現状から、日本側の受け入れ体制の見直し、解決策、取り分け悪徳業者の排除が早急に求められています。
優良な送り出し機関、監理団体が存在する裏で、悪徳な業者が潜んでいることは否定できず、この仲介を通さない方法がシンプルで良いと考える人もいるかと思います。実は技能実習制度にはその方法があります。
技能実習制度は「企業単独型」と「団体監理型」の2つに分かれており、「企業単独型」では名前のとおり企業が独自のスキームで実習生の受け入れをすることが可能です。しかし、これには、現地法人があることが前提で、さらに教育、渡航手続き、入国後のフォローなどを行う必要があり、相当の資金や体力、社内体制が無い限り、これを採用するのは大企業のみ、というのが現実です。
もともと中小企業向けにできた「団体管理型」(送り出し機関や監理団体が関わる)ですが、技能実習制度においては9割以上の企業がこちらを採用しています。大企業においては、企業単独型を選択するケースもあるのです。
参考:厚生労働省資料
主な関連組織:厚生労働省、公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
特定技能
2019年4月1日より人手不足が深刻な産業分野において「特定技能」での新たな外国人材の受け入れが可能となりました。
この在留資格「特定技能」に係る制度とは、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていくものです。
公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
業種一覧はこちら( 公益財団法人 国際研修協力機構)※ページ下部
特定産業分野(14分野) については、分野によって所管省庁が分かれていますので、以下の記事を参考にしてください。
- 特定技能【宿泊業】(ホテル・旅館)業種毎に解説!
- 特定技能【航空分野】業種毎に解説!
- 特定技能【造船・舶用業】業種毎に解説!
- 特定技能【建設業分野】業種毎に解説!
- 特定技能【ビルクリーニング分野】業種毎に解説!
- 特定技能【製造業】(3分野)業種毎に解説!
- 特定技能【介護分野】業種毎に解説!
特定技能とはズバリ、日本の「人手不足の解消」することを第一の目的に掲げている(技能実習との比較されやすいのはこの点)のですが、
19年4月の制度施行から、その受け入れ人数は伸び悩み、また、技能実習制度が抱える問題(失踪、外国人犯罪の増加)の解決策がないまま、受け入れ枠を増やすことに反対意見があり、多くの課題を持っています。
技能実習が必然的に「送り出し機関」と「監理団体」を介するのに対し、「特定技能」は、 受け入れ機関(雇用主となる日本企業)と外国人材との2者間での労働契約が原則となります。(しかしこれは人材送り出し国との協定内容により異なります。)
特定技能においては、「監理団体」に代わり「登録支援機関」という新たな役割が誕生しており、ここは外国人材を受け入れる企業(特定技能所属機関)に代わって、支援計画を作成したり、特定技能1号の活動を安定的・円滑に行うことを支援する機関を指します。
特定技能の「いま」は、業界全体として受け入れ人数が少ないため、事業者は手探りでの申請、受入、教育体制構築が現実となっています。
2020年3月現在の特定技能外国人の労働者人数(出入国在留管理庁の情報をもとに作成)
業種 | 2019年受入れ目標人数 | 2019年受入れ実績人数 |
介護業 | 5,000人 | 19人 |
宿泊業 | 850~1,050人 | 15人 |
農業 | 3,800~7,300人 | 292人 |
漁業 | 600~800人 | 21人 |
外食業 | 4,000~5,000人 | 100人 |
建設業 | 5,000~6,000人 | 107人 |
航空業 | 100人 | 0人 |
素形材産業 | 3,400~4,300人 | 193人 |
産業機械製造業 | 850~1,050人 | 198人 |
電気・電子情報関連産業 | 500~650人 | 38人 |
自動車整備業 | 300~800人 | 10人 |
造船・舶用工業 | 1,300~1,700人 | 58人 |
ビルクリーニング業 | 2,000~7,000人 | 13人 |
飲食料品製造業 | 5,200~6,800人 | 557人 |
特定技能の問題点は、「制度だけ急いで作ってしまったために、それを動かす事業者たちの対応が追い付いていない」ことが要因です。
「特定技能」において新設する試験について(出入国在留管理庁:2020年5月発表)
人材を送り出す東南アジア諸国の現地でも、日本で働きたい外国人が、特定技能による在留資格取得許可を待つも、一向に許可が下りない状態です。これは、送り出し国側が入国に必要な「技能試験」を実施できていないことや、申請者側の書類不備なども要因であり、制度への理解不足も足かせになっています。
主な関連組織:厚生労働省、経済産業省、農林水産省、国土交通省、公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
「技術・人文知識・国際業務」 という選択肢
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動。該当例としては,機械工学等の技術者,通訳,デザイナー,私企業の語学教師など。
法務省ホームページ 技術・人文知識・国際業務 「日本において行うことができる活動内容等 」
「技術・人文知識・国際業務」(「高度人材」と呼称されることがあります)については、学歴要件などは求められるものの、その汎用性の広さが知られています。
法務省によれば、平成30年においては、20万人超の外国人がこの在留資格により日本で就業しています。(参考:法務省「 平成30年末現在における在留外国人数について 」)
主な職種は以下の通りです。
技術 | 人文知識 | 国際業務 |
技術開発者 | 企画 | 通訳 |
システムエンジニア | 経理 | 翻訳 |
プログラマー | 生産管理 | 私企業の語学教師 |
機械工学の技術者 | マーケティング | デザイナー |
たとえば、ITエンジニアの場合は、以下のいずれかに該当する場合、この在留資格の取得の条件を満たすことになります。
- IT系の4年制大学を卒業
- 本国において、同業種10年以上経験
- 法務省指定の技能試験に合格
まとめ
以上、外国人雇用に関する制度と在留資格に関する基礎知識について、まとめました。
外国人雇用の制度を理解するためには、そもそも「ビザ」とは何か、「ビザと在留資格」は何が違うのか、実は「ビザ」と「在留資格」は混同しやすいものですが、違うものですが、こうした点も理解されている方は多くないはずです。
参考記事:ビザと在留資格に関する基礎知識
メディアの報道や、インターネット上で公開される外国人雇用に関する情報を理解するためには、制度の成り立ち、在留資格の特徴から理解をする必要があり、外国人採用を考える企業、事業者のみなさまの一助になればと思い執筆しました。
本記事で記載される内容は2020年3月現在の情報であり、今後もタイムリーに情報収集していく必要がありますが、これまでの時系列で社会の動向をつかむきっかけにしていただけたらと思います。
外国人雇用に関わる制度概要、在留資格の詳細の解説記事は以下もご覧ください。