2020年7月27日、日本政府ならびに官房長官は、 観光需要の低迷を打破する一手として感染対策のうえで実施する「GO TO トラベルキャンペーン」に併せて、休暇を楽しみながらテレワークで働く「ワーケーション」の普及に取り組む考えを示しました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大がいまだ続く中、観光業の早期回復を目論見、日本政府はワーケーションによって、全国のリゾート地でバケーション(休暇)を楽しみながら仕事をするという新しい働き方改革を打ち出したのです。
ワーケーションの誕生
ワーケーションは、英語の「はたらく」(Work)×「休暇」(Vacation)を合わせた、「ワーケーション」”Workation “造語であり、リゾート地で余暇を楽しみながらテレワークによる仕事を実施することを言います。これは、2000年代にアメリカで誕生した「働き方」だと言われています。
定義としては、会社員が休暇を取得しながら滞在先で仕事を行うこと、休暇の期間は1週間~1ヵ月程度を指すことが多いです。ですので、たまの休みで仕事を忘れたい2泊3日の温泉旅行にもかかわらず、所用で仕方なく仕事をする、こととは定義が異なります。
ワーケーションへの反応
今回の政府による提言「ワーケーション」に対しては、労働者側には様々な意見があり、
【肯定派】
- 有給休暇取得率が低い日本で、積極的な有給(ワーケーション)休暇取得ができる
- 家族で夏休みなどを利用し普段の都会生活では味わえない自然体験ができる
【否定派】
- 人に仕事が紐づく日本では、「長期休暇」という文化はないため、根付かない。
- 仕事とプライベート(旅行)は分けて過ごしたい。
- 宿泊費、交通費をどうのようにするか、線引きがあいまいだ。
こうした様々な意見が飛び交っています。
ワーケーションで働く場所を見直す
昨今話題となっている、テレワークは、そもそもオフィスに留まらない働き方を推奨するもので、自宅であったり、カフェであったり、コワーキングスペースであったり、自分の好きな場所で働くことを指します。
一方、ワーケーションには、「休暇」(バケーション)という定義が含まれるため、人事制度としては複雑に受け取れますが、社内の福利厚生としては魅力付けをすることができます。「働く場所」を見直す「働き方改革」のひとつとして、今後も注目が予想されます。
しかし、日本社会に立ちはだかる大きな壁としては、自ら率先してワーケーション制度を取得することが若手、中堅社員には難しいであろう実情があります。こうした点は管理職以上が積極的に自らワーケーションを取得する姿勢が求められます。(男性の育児休暇と同様)
「ワーケーション」と企業の取組み
三菱地所
三菱地所は、日本社会における「ワーケーション」の普及促進を目的にしたサイト、WORK×ationを2020年7月に開設しました。こちらのサイトからワンストップでワーケーションのスケジュールを作成、発注ができ、ワーケーションに注力している自治体(例:長野県、和歌山県、広島県など)の配信情報も確認ができます。(旅程作成は、旅行代理店最大手のJTBと共同)
三菱地所は同サイトで、以下のように述べています。
社員にとっては、職場の仲間との非日常的な体験を通じ、普段と違った視点からビジネスを見つめ直すチャンスとなります。リゾート地で心身共にリフレッシュすることによる幸福度向上も期待できます。幸福度が向上すると、人は自然と創造性・生産性が向上するという研究結果が多く存在します。ワーケーションが、ライフスタイルに良い刺激をもたらします。
三菱地所の WORK×ation ポータルサイト
ワーケーションによって、企業、社員、地方自治体それぞれに良い効果が期待されるとし、今後も多方の地方自治体でリゾート地化が加速するものと思われます。
三菱地所が提供するワーケーションの例
WORK×ation Site 南紀白浜(和歌山県)
WORK×ation Site 軽井沢(長野県)
星野リゾート
ホテル業界で100年の実績を誇る星野リゾートでは、GOTOキャンペーンや、ワーケーションなど最先端のトピックをいち早く吸収し、旅行者に提案しています。
・ 星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳
リモートワークステイプラン1泊、3泊、5泊、7泊、10泊
・星野リゾート OMO7旭川
憧れのリモート書斎プラン
・青森屋、奥入瀬渓流ホテル
テレワークステイプラン(5泊以上優待プラン)
などなど、様々なプランが充実しています。
【星野リゾート】ワークを充実、バケーションを満喫!連泊滞在でお得に 星野リゾートの「ワーケーション」
2020年7月31日リリース(公式サイト)
ワーケーションプランの一日(例)
さまざまなワーケーションプランの情報から抜粋し、一般的なワーケーションの働き方の1日をまとめました。
07:00:起床・朝食
08:00:自然公園の散歩
09:00:午前業務開始(3時間)
12:00:昼食
13:00:周辺施設でアクティビティ
14:00:午後業務開始(4時間)
18:00:就業・夕食
20:00:天体観測・アクティビティ
こうしてみると、1日7時間勤務をしているものの、リゾート地の特色を十分に体感する時間もあるため、充実した1日となりそうです。こうした場所を変えた働き方は、社員の幸福度を高め、業務効率をも向上させることは納得できます。
しかし現在確認できる日本のワーケーションプランの多くは、1泊、2泊程度のプランが多く、欧米諸国のような、中長期(数週間~数か月)の休暇取得を想定するものはほとんどなく、こうした点は大きな人事制度の転換期となるか、企業毎の手腕が問われるところです。
まとめ-日本の働き方改革に浸透するのか
ワーケーションの必要条件として、中長期の休暇を安心して快適に過ごせる住環境と、あわせてテレワークに必要なWi-Fiの環境整備が求められています。日本は世界の国と比較してもWi-Fiの普及率が低く、地方自治体の宿泊施設においてもこうしたテレワークに適した環境を整備するノウハウが必要となります。
また、これまで政府主導で推進した、プレミアムフライデーや男性の育児休暇取得など、社会にいまだ浸透していない「働き方」の現状を見ると、「ワーケーション」もハードルは高いものと予想されています。
こうした「働き方改革」には、政府の推進力とそれを受け皿とする企業の実行力が大切になります。アフターコロナの働き方として、企業や地方自治体がどのような取り組みを行うか注目です。