「改革なくして成長なし。」小泉前首相が2005年に、述べた言葉です。現在、様々な分野でIT化が進み、また新型コロナウイルス感染予防による新しい生活様式の推進など、世の中が大きく変化を遂げようとしている中、企業においては、まさに生き残りを掛けた改革を迫られています。改革を進める上で、現場は時として痛みを伴います。新しい試みを実行しようとして、現場からの反発に合い、失敗に終わったという経験もあるのではないでしょうか。
しかしながら、時代の変化は待ったなしで、その勢いを増しています。そのような中で、経営・管理・現場が一体となって、改革を成功させるためにはどうしたら良いのでしょうか。
今回ご紹介をする「味の素株式会社」は、従業員数3,000名を超える大企業ながら、かつての労働時間を大幅に短縮した上で、売上を更に拡大するといった、働き方改革に成功しました。トップダウンではなく、いかに現場に理解を得て、徹底的な業務の見直しにより、無駄を省くことで利益体質にした取り組みは、企業規模関係なく多くの企業でヒントになるでしょう。そのヒントを探るべく、味の素の働き方改革を徹底解説していきます。
味の素の働き方改革の概要
味の素で、働き方改革が実行され始めたのは、西井孝明・代表取締役社長が、2015年に就任した直後のことです。
西井氏は、前年の平均年間総労働時間が1996時間であることに課題意識を持ち、就任直後から「残業ゼロ改革」というメスを入れました。数値目標を1800時間に掲げ、様々な施策を実行していきました。そして、2018年度には、「1820時間」とほぼ数値目標を達成し、改革スタートからわずか4年で176時間の平均労働時間短縮に成功をしました。
176時間といえば、すなわち1か月分の労働時間を超えます。急激に労働時間を短縮して、会社の経営は回るのか、どこかに業務のしわ寄せが起きているのではないかと考えてしまいますが、実際は会社が回らないどころか、社員1人の時間あたり売上高(人事売上高)は2015年度から15%増えたのです。
- 2015年から残業ゼロ改革の実行を開始した
- 2014年度は1996時間だった平均年間総労働時間が、2018年度には1820時間となった
- 労働時間が減っても、人事売上高は15%増えた
労働時間1ヵ月分を削減した働き方改革とは
2015年から働き方改革を実行し、1800時間という数値目標を掲げた当初は、現場からの反発もありました。特に営業部門からは、「顧客対応の時間が減り、売り上げた落ちたら責任を取れるのか」「こちらの都合で取引先に迷惑を掛けられない」といった声も上がりました。
そこで、社員に日々の業務の洗い出しをさせてみたところ、明らかな「無駄」があることがわかりました。全労働時間の25%が「移動」、20%が「会議」に使われていたのです。従来の仕事のやり方を見直し、具体的な改善に着手していきました。
朝礼廃止、客先直行を許可
従来はオフィスから離れたエリアを担当する営業マンは、朝礼や社内会議に参加するために担当エリアとオフィスの往復を余儀なくされていました。例えば、会議出席のために1時間かけて担当エリアから戻り、会議が終わればまた1時間かけて担当エリアに戻るといった具合です。
その状況を踏まえ、朝礼を廃止し客先への直行を許可しました。
会議の見直し
朝礼廃止に続き、それまで行っていた会議もゼロベースで見直しました。しなくてもいい会議はしない。開催するにしても開催頻度や時間を減らす。WEBでの参加を推奨する。などの対策を実施しました。
サテライトオフィスの契約
朝礼・会議の見直しだけでも、一人あたり年間20~30時間の削減に繋がりましたが、ここから更に改革の本領発揮となります。
味の素は、シェアオフィスの事業者と契約し、サテライトオフィスを各地に展開しました。そうすることで、社員は最寄りのサテライトオフィスに出社し、スマホアプリで始業を報告すれば良い形となりました。サテライトオフィスには、プリンターなども常設されているので、わざわざ資料の印刷をするために、会社に出社する必要がなくなりました。
在宅勤務ルールの緩和
2017年からは在宅勤務のルールを大幅に緩和しました。従来は育児中の女性社員に限定するなど規定がありましたが、ルール緩和後は誰でも自宅や外出先、サテライトオフィスなどあらゆる場所で好きな時に仕事ができる「どこでもオフィス」制度を導入しました。
このように、朝礼・会議の廃止、どこでもオフィス制度の導入により、非効率な時間の使い方がなくなりましたが、顧客に対応する時間は減っていません。むしろ、顧客に使う時間が増えたことで、人時生産性が向上しました。
常識に捉われないゼロベースでの発想
味の素の働き方改革は、営業部門だけではなく、製造部門の改革にも乗り出しました。在宅勤務やサテライトオフィスの利用などは、営業部門だからこそできることと捉えられ、製造部門の現場からは、「自分たちに時短ができるわけがない」と反発がありました。
それでも、「製造部門でも時短は可能」と主張し、その上で「どうやったらできるのだろうか。まずは考えてみないと道は絶対に開けない」と現場を鼓舞し、改善の余地の検討を始めました。
結果として、報告書作成などの事務作業を交代や在宅でこなせるように、業務分担の見直しを図るようになりました。そうすることで、時間が空いた社員が、他の社員の仕事を肩代わりするようになり、現場の仕事を協力してこなすようになりました。
まとめ|思考停止をせずに、どうやったら出来るか?を考え抜く。
自分達では無理。できない。と始めから決めつけてしまうと、その時点で思考が停止し、本当に何も変わらないままになってしまいます。ひょっとしたらできるのではないか?どうしたらできるのだろう?と、まずは考えてみることで新たな道が開けるということを、味の素の働き方改革から学ぶことが出来たのではないでしょうか。
今回の事例もまた「味の素だから」「大手企業だから」と捉えるのではなく、「自社にも使えそうな部分はあるのではないか」「まずは小さいことからでもやってみてはどうだろうか」と考えることができます。
「改革なくして、成長なし」
ぜひ、勇気を持って改善に着手してみてはいかがでしょうか。
参考資料:
ダイヤモンド社 味の素が「労働時間1カ月分削減」に成功した、働き方改革の発想とは
次世代採用ナビではこれまでもさまざまな企業の働き方改革についてご紹介してきました。以下も併せてご参照頂ければ幸いです。