三井不動産グループは、企業理念である「&マーク」の精神──すなわち「共生・共存・共創によって新たな価値を創出し、そのための挑戦を続ける」──を基盤に、多様な人材が最大限の力を発揮できる職場環境の構築を進めています。社会の変化が加速する中で、個人のライフスタイルや価値観に応じた柔軟な働き方を可能にすることが、企業の持続的成長の鍵であるという考えのもと、同社は働き方改革を経営の中核に据えています。
この記事では、三井不動産の「多様な働き方実現に向けた取り組み方針」を中心に、①柔軟な勤務制度の整備、②ワークライフバランスを支える意識改革、③ライフイベントに寄り添う支援制度の3つの軸から、その実践内容を詳しく解説します。これらの取り組みは単なる制度の導入にとどまらず、社員の自律的な成長と企業価値の向上を両立させる先進的なモデルとして注目されています。

多様で柔軟な働き方を支える制度整備
三井不動産は、働く場所や時間に制限されない柔軟な勤務制度を整えることで、生産性と社員の満足度の両立を図っています。リモートワークやスーパーフレックス制度に加え、社員のライフイベントやキャリア形成に応じた休暇・再雇用制度など、多様なニーズに対応する制度を段階的に拡充してきました。これにより、社員一人ひとりが自らの働き方を設計できる環境が実現しています。
リモートワークの全面導入と「ワークスタイリング」およびスーパーフレックス制度の融合
三井不動産では、全社員を対象に上限時間を設けないリモートワーク制度を導入し、自宅やシェアオフィス、出張先など、場所を問わず柔軟に働ける体制を整えています。プロジェクトの特性や個々の生産性に応じて、出社・在宅・サテライトの勤務比率を自由に設計できる点が特徴であり、チーム全体の業務効率と個人の集中時間の両立を実現しています。また、自社が展開する多拠点型サテライトオフィス「ワークスタイリング」を全社員が利用可能とし、移動時間の短縮やクライアント至近での作業が可能になりました。
さらに、コアタイムを設けないスーパーフレックス制度を導入し、育児・介護・通院・資格学習などライフスタイルに応じた柔軟な時間設計を可能にしています。加えて、パソコン利用時間の制御システムや勤怠データの可視化を活用し、社員が健康的かつ効率的に働ける環境を実現しています。このように、リモートワーク・サテライト活用・スーパーフレックスを三位一体で運用することで、三井不動産は多様な働き方の実現と生産性の向上を両立させています。

リターンエントリー制度・フレッシュアップ休暇によるキャリア支援
三井不動産では、社員がライフステージの変化や家庭の事情、キャリアチェンジなど、さまざまな理由で一時的に会社を離れたとしても、再びその経験を活かして活躍できるよう、「リターンエントリー制度」を導入しています。退職後も応募可能なこの制度は、過去に在籍していた社員の経験や人間関係を尊重し、復職時に即戦力として活躍できるよう設計されています。こうした取り組みにより、三井不動産グループ全体で人材の循環を促し、「辞めても戻れる企業文化」を醸成しています。
さらに、社員が長期的に成長を続けられるよう、勤続年数に応じて5〜10日の特別休暇と記念品を付与する「フレッシュアップ休暇」制度を整備しています。 「フレッシュアップ休暇」は、一定の勤続年数を経過した社員に対して、5〜10日の特別休暇と記念品を付与する制度です。社員が心身をリフレッシュし、新たな視点を得る機会として位置づけられており、長期的なキャリア形成を支援する目的で運用されています。
カフェテリアプランと家族参加型イベントの実施
福利厚生制度『カフェテリアプラン』では、自己啓発や健康増進、レジャー、旅行など、社員が自身の目的に応じて自由に選択・利用できる仕組みを整えています。
また、 社員の家族が職場を訪れ、社員とその家族との絆を深めることを目的とした交流イベント の「ファミリーデー」では、オフィス見学、職場体験イベントを通じて、社員の働く姿を家庭と共有し、ライフとワークの相互理解を促進します。 三井不動産では、このような取り組みを通じて家庭と職場のつながりを大切にし、社員が安心して働ける環境づくりを進めています。
三井不動産のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
三井不動産は、「共生・共存・共創」の理念のもと、すべての社員が個性や能力を最大限に発揮できる組織づくりを進めています。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営の重要方針として掲げ、性別・年齢・国籍・ライフステージを問わず、誰もが活躍できる環境の整備に取り組んでいます。
D&I推進宣言と基本方針
三井不動産では、多様な価値観・才能・ライフスタイルを持つ人材が力を最大限に発揮できる組織づくりを、グループ一体で推進していることが明示されています。D&Iの取り組み方針としては、人種・国籍・宗教・性別・年齢・障がいの有無・性自認・性的指向などに関わらず公正に評価する姿勢を掲げ、働き方改革や人事制度の充実によってワークライフバランス支援と生産性向上を両立させる方針が示されています。特に女性活躍を重要テーマに据え、定量目標と活動計画を設定したうえで施策を講じる点が特徴です。
この宣言と方針は、不動産デベロッパーの枠を超えた「産業デベロッパー」として価値創造を続けるうえで、人材を最大の原動力と捉える考え方から導かれています。D&Iの推進は単なる人事施策にとどまらず、企業価値の持続的向上に資する中長期の経営課題として位置づけられており、トップメッセージを通じて全社に浸透が図られています。
女性活躍の具体施策
三井不動産では、グループ全体で女性活躍推進に取り組んでいます。女性管理職比率を、2030年に20%まで引き上げることを目標に進捗を管理しています。取り組みとして、復職後の働き方やキャリアを見据えた「産育休復帰時研修」を実施し、復帰者と所属長の双方に必要な知識・スキル・マインドを提供しています。また、全従業者向けのアンコンシャスバイアス研修、組織長向けのダイバーシティマネジメント/フィードバック研修など、意識とマネジメントの両面から環境整備を行っています。さらに、2022年度に開始したグループ合同研修「つながる・成長するプロジェクト」では、D&Iや女性活躍に関する研修、外部ロールモデル講演、交流会等を通じてスキル向上とネットワーク形成を促進しています。
キャリア形成支援として、女性管理職対象のメンター制度、管理職・管理職手前層に向けた個別の育成計画策定、経団連主催の「女性管理職ステップアップ講座」をはじめとする外部研修への積極派遣、そして女性管理職によるランチ会の開催が挙げられます。これらは視野拡大、マネジメント力強化、ネットワーク構築を目的としており、日常業務での実践と上司との振り返りを通じて着実なスキル定着を図る仕組みになっています。
従業員参画の仕組みと対外評価
ボトムアップの仕組みとして、手挙げ制の「D&Iワーキングチーム」を組成し、従業者自らが定期的な意見交換や施策の企画・発信を担う枠組みを整えています。人事部主導の施策だけに依存せず、本部・部門ごとにD&I/女性活躍の施策を策定して推進することで、現場の実情に即した取り組みを横展開できる体制となっています。こうした“現場発”の参加を重視する運用は、全社的な理解と実装スピードの向上に資するものです。
社外からの評価としては、経済産業省と東京証券取引所が共同選定する「なでしこ銘柄」に4年連続で選定されています。加えて、両立支援の高水準な取り組みを示す「プラチナくるみん」や、女性活躍推進に積極的な企業に与えられる「えるぼし」認定を取得しています。さらに、MSCIが選定する「MSCI 日本株女性活躍指数(WIN)」の構成銘柄に7年連続で選定されているほか、GPIFが2023年から採用した「Morningstar日本株式ジェンダー・ダイバーシティ・ティルト指数(除くREIT)」でも最高位の「グループ1」に格付けされています。
ライフイベントを支える育児・介護支援制度
三井不動産は、社員が育児や介護などのライフイベントを迎えても安心して働き続けられるよう、法定を上回る支援制度を数多く整備しています。単なる休暇制度にとどまらず、「キャリアの継続」「家庭との両立」「経済的支援」の3つの側面から総合的にサポート。性別を問わず誰もが活躍できる企業文化を形成しています。
育児支援の取り組み
三井不動産では、社員が出産・育児の各段階において安心して働き続けられるよう、法定を上回る多様な支援制度を整備しています。育児休業は最長3年間の取得が可能であり、男女問わず利用できる点が特徴です。さらに、男性社員の育児参加を促進するため、出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)や育児支援休暇制度を導入し、配偶者出産時にも柔軟に取得できる環境を整えています。短時間勤務制度やフレックスタイム勤務制度の併用も可能で、子どもの年齢や家庭状況に応じて働き方を選択できる仕組みが整っています。
また、出産や育児に関する支援として、復職前後の面談制度および「産育休復帰時研修」を実施しています。復帰時には本人・上司・人事部が面談を行い、業務内容の調整やキャリア設計を共有することで、復職後の不安を軽減。さらに、全社員を対象にした男性育休セミナーやワーキングファザー座談会を開催するなど、子育て期の社員を周囲が理解・支援する風土づくりも進めています。こうした取り組みが評価され、厚生労働省より「子育てサポート企業」として最高位の「プラチナくるみん」認定を取得しています。

介護支援の取り組み
家族の介護を抱える社員が安心して働けるよう、リモートワーク制度や時短勤務制度を柔軟に活用できる環境を整え、突発的な介護にも対応可能な体制を整備しています。介護休業は法定を上回る通算1年間の取得が可能で、分割して取得できるため、長期的な介護にも対応できます。さらに、介護費用補助制度を設け、経済的な負担軽減を図っています。
また、社内には「ケアデザイン室」を設置し、人事部と連携して従業員とその家族を対象とした介護セミナーや個別相談を実施しています。介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持つ社員によるカウンセリングを受けることもでき、制度の利用方法や介護サービスの選び方などを具体的にサポートしています。これにより、社員が介護と仕事の両立を図りながらキャリアを継続できる体制を確立しています。介護は突然始まるケースが多いため、こうした事前の情報提供や相談窓口の存在が社員の安心につながっています。
まとめ
三井不動産の「多様で柔軟な働き方を支える制度整備」は、場所と時間の自由度を高めるリモートワークと「ワークスタイリング」、コアタイムのないスーパーフレックスを中核に、勤怠の可視化やPC利用時間の管理で健康と生産性を両立させる仕組みが特徴です。さらに、退職後も再挑戦できるリターンエントリー制度や、勤続年数に応じた特別休暇を付与するフレッシュアップ休暇によって、ライフイベントとキャリア継続を支援しています。加えて、自己啓発や健康増進などを柔軟に選べるカフェテリアプラン、家族とのつながりを深めるファミリーデーといった福利厚生も組み合わせ、働きやすさと働きがいの双方を底上げしています。これらを三位一体で運用することで、社員一人ひとりが最適な働き方を設計できる環境を整え、組織全体の生産性向上につなげています。
